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柴田も教室でよく本を読んでいた。 いつも書店のカバーがかけられていて何を読んでいるのかはっきりとはわからなかったけれど、問題集でないことは明らかだった。 さりげなく覗き見た時にびっしりと縦書きの文章が連なっていたからだ。 文庫サイズがほとんどだったけれど、時々、ハードカバーらしき本を手にしていることがあった。 そういえば一度だけ、ハードカバーの本の写真ページが見えたことがあった。 深い青から薄紫へ続くグラデーションの空。 夜明けなのか夕暮れなのかどちらとも解釈しがたいその色はとても印象的できれいだった。 「それ、小説?」 僕の声にキッといつもの鋭い視線を返してパタンと本を閉じてしまった柴田。 じっと真っ直ぐな視線をそこに落としていた横顔を思い出す。 いつもと変わらないようでいて、どこか切なそうに見えたあの時。 柴田は何を思っていたのだろう。 同じような大きさと厚さの本を書店でいくつか探してみたけれど、タイトルも作者もわからなくて、結局探し当てることはできなかった。
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