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矢野は柴田のことを『よくわかんねー女』と言って時々話題に挙げていた。 外見からはまるで想像もできないその柴田の様子に、正直なところ僕は興味があった。 そして今年。 柴田と僕は同じクラスになった。 「げ。またあいつと一緒か」 うんざりした顔でクラス替えの表を見ていた矢野も同じだった。 「縁があるな」 笑ってそう茶化した僕だったけれど、災難はあろうことか僕の方にやってきた。 最初の席替えで僕と柴田は隣同士になってしまったのだ。 「縁があるな」 ニヤリと笑ってそう言ってきた矢野に、思わず舌打ちした。 面倒くさいことこの上ねーな、と思いながら、ふと、座席が替わるまでどうせだからと僕は慎重に彼女を観察しながら出来る限りの関わりを試みることにした。 こんな変人と関わる機会はこの先ないだろうから、と。 クラスの雰囲気が落ち着きだした5月半ばのこと。 校庭の桜は、その枝に青々とした葉を茂らせ爽やかな風にざわめきを加えて季節の移り変わりを教えていた。 中だるみし始めた高校生活へのスパイスと、ちょっとした興味から思いついた出来心のつもりだった。
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