第1章

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「実家の方でお見合いすることになったので、少しまとまった休みが頂きたいのですが。急で申し訳ありません」 聞き間違いだと思う。 うん、きっとそうだ。 そう思い込もうとしている俺に容赦なく彼女は告げる。   「来週の週末には帰ってきますが、出来れば火曜から定休日の水曜を挟んで金曜までの3日間ほどいいでしょうか」 俺は焦り始める。 彼女が3日間もいない…。 仕事はどうなるんだ。 俺の心を読むかのような彼女の言葉。   「もちろん引継ぎはレポートにまとめ、山科さんに渡しておきます。それで問題ないと思いますが」 そりゃあ君が指示するんだから、どんな馬鹿でも仕事は出来るようになっているだろう。 そう3年目にも関わらず、ときどき酷いミスをして聞くに堪えない?叱責の数々を君から浴びている山科でさえそのレポートを読めば完璧に出来るはずだ。 間違いないと思うが… 君がいない榊不動産は榊不動産として成立するのか、俺はそれが不安なのだ。 「よろしいでしょうか?それとも社長?私がいなければ何かお困りの事でも?」 …その言い方…俺を追い詰め断れなくしている。 結果、やはり逆らえない俺は   「わかったよ梢ちゃん。そのように段取りましょう」 そう言わざるを得ない。   「ありがとうございます。ではお先に失礼いたします」 梢ちゃんは一礼して俺のデスクから立ち去り、バッグを引き出しから出すと帰って行った。 と、同時に俺ははぁーっとため息を吐きデスクに突っ伏す。
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