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「坊ちゃん、いっそ事務のできそうな相手と見合いでもしてお嫁さんと二人で仕事ってのはどうですか?旦那さんと奥さんみたいに」
こんなことを言い出すまで、彼女も疲れていた。
「すまないけど見つけるから、もうちょっとがんばってね」
俺は大橋さんに頭を下げた。
しかし…いや無理だろ。お見合いとか…。
過去を調べられたらアウトだし、両親にまでいろいろバレるだろ。
できれば知られたくないんだよ、すまないね、大橋さん…と心で謝る。
そんな時だった。
俺はその日新しい大口の物件を紹介してもらうためにある地主と会い、接待でホテルのラウンジに来ていた。
「いい値を出してもらって助かります。先方もあの土地なら分割せずに買い上げるでしょう」
商談は順調にまとまり、俺はホテルの前でタクシーに乗る相手を見送った。
“さて、飲み直しに行くかな”
そう思っていると俺の横を一組の男女が通り過ぎた。
その時、俯いて歩く女に目が留まった。
見覚えがあるが、思い出せず気になって俺は少し距離を空け、二人について行った。
二人はさっきまで俺がいた展望ラウンジに入って行く。
カウンターに座った二人のすぐ後ろの席に座り、背中越しに二人の会話を聞いていた。
「君も飲んだらどうだい?まあ、1杯くらい付き合えよ」
「私はお酒に弱いので」
「じゃあ、帰るかい?僕は別に話すことはないんだよ」
「先生、今夜は話してくださるっておっしゃったじゃないですか。いいです、お付き合いします。じゃあ、何かカクテルを」
「僕はヘネシーを彼女にはロングアイランドアイスティーを」
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