挑発

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「勝負ぅ? こんな暑いのに、そんな熱いことしなくたっていいだろ?」  セルの誘いを飄々とかわすラフに、セルが大袈裟なほど肩をすくめ、首を左右に振った。 「そんなつれねぇこと言うなよ、ラフ。涼しくなりゃいいのか?」  セルが小首を傾げてそう尋ねた瞬間、セルの鰐の尾が、その大きさには似合わぬほど素早く動く。  途端、ふたりの横を通り抜けようとしていた荷馬車に積まれたワイン樽が弾け飛んだ。  ふたりの頭上に赤い雨が降る。  何が起こったか分からず、頭を抱えて喚く馭者。 「これでちったぁ涼しくなっただろ?」  口端についた赤い液体を舌先で舐め取り、セルが愉しげに笑む。  ラフが呆れたように肩を落とし、横路を親指で差した。 「ったく、仕方ないな……ここじゃ迷惑だから、場所、変えよう」  面倒臭いとぼやきながら進むラフの後ろを、上機嫌で歩くセル。  横路を通り抜ければ、商店の倉庫が建ち囲むちょっとした空き地に抜け出た。 「まぁ……ここならいいか」  白髪に指を滑らせ振り返るラフの赤茶色の双眸を、縦に開いた瞳孔を闘争心で煌めかせたセルの片眸が迎え撃つ。 「ふーん、いい場所だな。よし! じゃぁ、戦るか!」
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