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「へぇ?」
黄金色の飛沫を双方向から一身に浴びたセルが、灼熱色の濡れた髪を掻き上げながら、低い声を響かせる。
縦に伸びた瞳孔が炯々と光り、呆然と空のグラスを持ってセルを見つめるふたりのセリアンに向けられた。
驚愕に見開かれた紅玉の瞳と恐怖に引き吊った紫水晶の瞳。
「面白ぇこと、してくれるじゃねぇか」
指先に纏わりついた雫を払い、セルが牙を向く。
その瞬間、セルを中心に周囲の人垣がざっと離れ去った。
「え! あ……」
セルにジュースを掛けたふたりの内のひとり、2本の角の生えたガゼル型セリアンが、紫色の双眸で周りを見渡し、今にも泣き出しそうな表情でぷるぷる震え始める。
そして、もうひとり、長い耳の生えた兎型セリアンが、その双眸と同じ紅い唇を開こうとした瞬間、セルと兎型セリアンの間に別のセリアンがすっと割って入った。
兎型セリアン同様北の帝国の衣装に身を包む、女性と見紛うばかりの麗しい金魚型セリアン。
「連れが失礼致しました。お召し物など、濡らしてしまったものは、責任を持って弁償させて頂きます」
セリアンが、丁寧な物腰ながらも、獰猛な表情のセルに毅然とした口調で誠意を示す。
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