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「真浦(まうら)……」
御影人、射夏真浦(いるか まうら)が変わり果てた姿で、祠の縁(えん)に腰を掛けている。光を宿さない虚ろな瞳は、深いマリンブルー。黒く艶やかだった長い髪も同じ色を呈していて、真っ白な死装束の向こうにはうっすらと、苔むした祠(ほこら)の石壁が透けて見える。
真浦はいつもぼんやりと、岩窟の裂け目の向こう、洋々と広がる外海へ視線を放り投げている。
触れようと手を伸ばすも叶わずに、すり抜けてしまう。もう分かっている筈なのに、何度も繰り返しているはずなのに、そうやって触れようとする度に冷たい現実がひしひしと刃物のように胸を貫く。
そっと、僕の中にある御霊虫(みたまむし)に通力を込める。腹の底からじんわりと熱のようなものが湧き上がる感覚と共に、生命のマウラ、御霊虫が真浦の身体へと伝播(でんぱ)する。
そうして真浦が少しだけ、こっちの世界に戻って来る。
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