第1章

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 秋が過ぎ、冬が近付いてくる。  琥珀の動きが鈍くなり、ぼーっとしている事が結構あるようになった。やはり冬眠が必要なのだろうか。 「琥珀、最近寒くなっただろ。冬眠しなくて良いのか?」 「うー……やだ」  なんて言ってる端から目が開かなくなりそうだし。今は二人で夕食を食べに出た帰りだ。 「だって、折角信之と色んな事出来るのに……」 「じゃあ、暖房かけた部屋で留守番しているか?」 「それもやだ。信之と外ご飯行きたい」  ここのところ、このやり取りが繰り返される。  最近の琥珀のお気に入りは、部屋から徒歩十分程の焼き鳥屋だ。内臓系の肉も充実しているし、注文に融通が効くので、琥珀用の味付け無しも対応してくれる。何より、雀の丸揚げなんてレアメニューもある。  結局、部屋に帰り着くなり、琥珀はコートも脱がずにベッドに潜り込んでしまった。この調子で朝もなかなか起きられない。  なんとかコートだけ脱がして、俺は風呂に入ってから寝る事にする。  ベッドに入ると、琥珀の様子がおかしい。いつもなら暖を求めて擦り寄ってくるのに、体を起こしたまま固まっている。 「琥珀、どうした?」 「気持ち悪い……」  ベッドの上で吐く大惨事は免れたものの、琥珀は吐いた事で相当ヘコんでしまった。食後に体を冷やしたのがまずかったのだろう。 「わかった、冬眠する……」  今ではすっかり表情が豊かになった琥珀が、泣きそうな顔で俺にしっかとしがみ着く。人型では冬眠するのは難しいと、俺も琥珀も考えているのだ。 「信之。春になったらまた人間になるから、一緒にいてほしい」  図体はデカイのに、やはり琥珀には子供っぽい所がある。 「大丈夫。冬眠中もこの部屋のベランダにずっと居てもらうし、春になったらまた一緒に暮らそう」  あやすように背中を軽く叩いた。  その夜から琥珀は蛇に戻り、俺は翌日冬眠に必要な水槽や断熱材を買ってきて、冬眠の準備を始めた。  数日後、ベランダの窓を開けた俺の後に琥珀が続く。頭を撫でると断熱材に覆われた水槽に近付くが、入る寸前で俺を振り返り頬擦りをした。 「春までの我慢だからな」  抱き締めて撫でてやると、漸く水槽に入って体を丸めた。 「お休み……」  しっかり蓋をして、上からも断熱材を被せた。
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