第2章

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「柏葉、お前最近評判悪いぞ」  会社の自販機前の休憩スペースで、同期の石井が声をかけてきた。 「は? 俺、手ぇ抜いた仕事なんてしてないし」  睨んでやると、嫌みな程のイケメンがしかめられる。 「そっちじゃない。合コンの方だ。今まで付き合い悪かったクセに、十一月下旬頃から急に出てくるようになったと思ったら……」  そこまで言うと、石井は周囲を見渡して俺の耳元で囁いた。 「ホテルに女の子連れて行って、本当に直前で『やっぱり止めた』って、三回もやったって聞いたぞ」  この地獄耳め、よく知ってやがる。そこまで言うと、石井は体を離した。 「あちらさんから顰蹙買っているんだけど。俺としてもメンバーに入れたくなくなってくるぞ」 「じゃあいいよ別に。そろそろうんざりしてきたところだし」  ぞんざいに返すと、石井は目を見開く。 「うんざり? なんだよ、その態度。クリスマスに独りになりたくないから、合コンに参加したんじゃないのか? お前から出たい、って言ってきたじゃないか」  石井はちょっと変わった奴で、入社してからこっち、積極的に合コンのセッティングをするクセに、自分は一切参加していない。まるで仲人おばちゃんのような奴だ。 「な~んか違うって気がしてきた」  合コンの時は「この子だ!」なんて感じても、いざ触れ合ってみると、強烈に「違う!」と言う違和感を感じてしまうのだ。  俺をじっと見ていた石井が、にやり笑う。 「ふーん。良いんじゃないか、それならそれで。合コンは柏葉に向いていない、って事だろう? これからは同じ失敗をするなよ」  ポンポンと肩を叩いて、石井は去り際に「なんかあったら相談に乗るから」と、言い置いていった。  寒くて暗い部屋に帰ると、真っ先にベランダを見に行くが、眠りを妨げそうな気がして、冬眠用の水槽には極力触れないようにしている。 「琥珀……」  十二月も終わりに近付いているが、春はまだまだ先だ。  独り寝のベッドがやけに広く感じる。今日も寝苦しい夜が来る。  そして、三月。俺は毎朝の外気温をグラフに書いていた。気温は日毎に、上がったり下がったりするが、グラフに起こすと、平均気温が上がってきているのがわかる。  少しフライングな感が否めないが、今週末に琥珀を起こす事に決めた。  金曜日の朝、ベランダの冬眠用水槽を開けて、琥珀を抱き上げる。
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