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「柏葉、お前最近評判悪いぞ」
会社の自販機前の休憩スペースで、同期の石井が声をかけてきた。
「は? 俺、手ぇ抜いた仕事なんてしてないし」
睨んでやると、嫌みな程のイケメンがしかめられる。
「そっちじゃない。合コンの方だ。今まで付き合い悪かったクセに、十一月下旬頃から急に出てくるようになったと思ったら……」
そこまで言うと、石井は周囲を見渡して俺の耳元で囁いた。
「ホテルに女の子連れて行って、本当に直前で『やっぱり止めた』って、三回もやったって聞いたぞ」
この地獄耳め、よく知ってやがる。そこまで言うと、石井は体を離した。
「あちらさんから顰蹙買っているんだけど。俺としてもメンバーに入れたくなくなってくるぞ」
「じゃあいいよ別に。そろそろうんざりしてきたところだし」
ぞんざいに返すと、石井は目を見開く。
「うんざり? なんだよ、その態度。クリスマスに独りになりたくないから、合コンに参加したんじゃないのか? お前から出たい、って言ってきたじゃないか」
石井はちょっと変わった奴で、入社してからこっち、積極的に合コンのセッティングをするクセに、自分は一切参加していない。まるで仲人おばちゃんのような奴だ。
「な~んか違うって気がしてきた」
合コンの時は「この子だ!」なんて感じても、いざ触れ合ってみると、強烈に「違う!」と言う違和感を感じてしまうのだ。
俺をじっと見ていた石井が、にやり笑う。
「ふーん。良いんじゃないか、それならそれで。合コンは柏葉に向いていない、って事だろう? これからは同じ失敗をするなよ」
ポンポンと肩を叩いて、石井は去り際に「なんかあったら相談に乗るから」と、言い置いていった。
寒くて暗い部屋に帰ると、真っ先にベランダを見に行くが、眠りを妨げそうな気がして、冬眠用の水槽には極力触れないようにしている。
「琥珀……」
十二月も終わりに近付いているが、春はまだまだ先だ。
独り寝のベッドがやけに広く感じる。今日も寝苦しい夜が来る。
そして、三月。俺は毎朝の外気温をグラフに書いていた。気温は日毎に、上がったり下がったりするが、グラフに起こすと、平均気温が上がってきているのがわかる。
少しフライングな感が否めないが、今週末に琥珀を起こす事に決めた。
金曜日の朝、ベランダの冬眠用水槽を開けて、琥珀を抱き上げる。
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