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まだ目覚めていない体はずっしり重く、少し手に余して引き摺ってしまう。
今日はこのために、朝から暖房をつけず室温を低めにしている。室内の飼育ケースに寝かせて、後は気温の上昇に任せ、午後からの気温の低下には、暖房のオンタイマーで対応する。
『今日は仕事に行っている。夜、いつもと同じくらいに帰るから待っていろ』
飼育ケース内のわかりやすい所にメモを置いて、扉を開けた状態で仕事に向かった。
人型でいた数ヶ月で、琥珀は小学校中学年くらいの日本語をマスターしている。覚えていれば、メッセージが理解出来る筈だ。
大体予想通りの時刻に退社して、慌てて帰宅する。
「琥珀! ただいま」
部屋に入ると、ベッドに横たわる琥珀が目に入る。まだ蛇の姿だ。
「琥珀、おはよう」
ベッドの脇に膝をついて顔を近付けると、顔をもたげた琥珀が口をパクパク動かす。が、蛇には発声器官が無いので、言葉にはならない。
琥珀は口を閉じて俯いた。
あ、わかる。今、琥珀はぶすくれている。
「うん、わかる。『おはよう』って言いたかったんだろ?」
頭を撫でやると、頬擦りをしてくる。冬眠前と同じ仕草に嬉しくなって、思わず抱き締める。
久し振りの肌触りに、俺の顔はゆるゆるに緩んでいった。
「ちょっと待ってな。今ご飯用意するから」
量は多くないけれど、内臓系の肉も充実させた鶏肉の炒め物に、カルシウム補充のための煮干し。
俺が料理を運ぶ頃には、琥珀はテーブルに頭を乗せて待っていた。
鶏肉の炒め物を見て、もたげた頭を嬉しそうに揺らしたが、煮干しの入った皿を見て、少し顎を引く。嫌いなのだ。煮干しが。匂いが嫌らしい。
「カルシウムをちゃんと摂らないと体が動かないぞ。それに、人型になるには骨に負担がかかるんだから、カルシウムは大事だぞ」
頭を撫でて諭すと、渋々食べだした。
食べ終わると琥珀はさっさとベッドに上がり、添い寝モードだ。
俺は片付けとシャワーを手早く済ませ、琥珀の隣に潜り込む。
「久し振りだな……」
低い体温と滑らかな鱗。求めていた肌触りをやっと得て、深い息が漏れ出る。
俺の満足感に気付いたのか、琥珀がより一層擦り寄って体を巻き付けてきた。
琥珀程の体格ならば、俺の体重で潰してしまう事もない。安心して身を委ねると、一気に眠りに引き込まれた。
「ん……」
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