第2章

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 まだ目覚めていない体はずっしり重く、少し手に余して引き摺ってしまう。  今日はこのために、朝から暖房をつけず室温を低めにしている。室内の飼育ケースに寝かせて、後は気温の上昇に任せ、午後からの気温の低下には、暖房のオンタイマーで対応する。 『今日は仕事に行っている。夜、いつもと同じくらいに帰るから待っていろ』  飼育ケース内のわかりやすい所にメモを置いて、扉を開けた状態で仕事に向かった。  人型でいた数ヶ月で、琥珀は小学校中学年くらいの日本語をマスターしている。覚えていれば、メッセージが理解出来る筈だ。  大体予想通りの時刻に退社して、慌てて帰宅する。 「琥珀! ただいま」  部屋に入ると、ベッドに横たわる琥珀が目に入る。まだ蛇の姿だ。 「琥珀、おはよう」  ベッドの脇に膝をついて顔を近付けると、顔をもたげた琥珀が口をパクパク動かす。が、蛇には発声器官が無いので、言葉にはならない。  琥珀は口を閉じて俯いた。  あ、わかる。今、琥珀はぶすくれている。 「うん、わかる。『おはよう』って言いたかったんだろ?」  頭を撫でやると、頬擦りをしてくる。冬眠前と同じ仕草に嬉しくなって、思わず抱き締める。  久し振りの肌触りに、俺の顔はゆるゆるに緩んでいった。 「ちょっと待ってな。今ご飯用意するから」  量は多くないけれど、内臓系の肉も充実させた鶏肉の炒め物に、カルシウム補充のための煮干し。  俺が料理を運ぶ頃には、琥珀はテーブルに頭を乗せて待っていた。  鶏肉の炒め物を見て、もたげた頭を嬉しそうに揺らしたが、煮干しの入った皿を見て、少し顎を引く。嫌いなのだ。煮干しが。匂いが嫌らしい。 「カルシウムをちゃんと摂らないと体が動かないぞ。それに、人型になるには骨に負担がかかるんだから、カルシウムは大事だぞ」  頭を撫でて諭すと、渋々食べだした。  食べ終わると琥珀はさっさとベッドに上がり、添い寝モードだ。  俺は片付けとシャワーを手早く済ませ、琥珀の隣に潜り込む。 「久し振りだな……」  低い体温と滑らかな鱗。求めていた肌触りをやっと得て、深い息が漏れ出る。  俺の満足感に気付いたのか、琥珀がより一層擦り寄って体を巻き付けてきた。  琥珀程の体格ならば、俺の体重で潰してしまう事もない。安心して身を委ねると、一気に眠りに引き込まれた。 「ん……」
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