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「信之! 信之! 大丈夫か?!」
琥珀がひっきりなしに、俺の頭や頬を撫でてくる。
「信之! ごめんなさい。俺、俺……」
俺がうっすら目を開けると、狼狽えた琥珀が、両手で頬を挟んで目を覗き込んできた。
「……今……何時?」
酷くしゃがれた声に、琥珀が携帯電話の時刻表示を見せてくれる。
Mon AM6:57
セーフ。まだ出勤時間じゃない。でも、身を起こすどころか、腕だってまともに上がらない。
年度末で忙しい時期だけど、今日は出勤出来る状態じゃない。
「8時に起こせ。それまで添い寝しろ」
なんとかアラームをかけて、琥珀を隣に呼び寄せる。低い体温に、心地好い眠りに誘われた。
酷い声のお陰で、病欠はあっさり納得された。
「信之……ごめんなさい。……俺、こんなになるなんて知らなくて…………えっと……俺とスルの、もう嫌?」
ベッド脇に座り込んだ琥珀はすっかりしょげている。
「まず、水、飲ませろ」
俺の指示に、ワンコよろしく琥珀はキッチンにすっ飛んで行き、すぐに引き返して来た。
コップ1杯では足らず、3杯飲んで漸く落ち着く。
体を支えてもらっていたけれど、腰がガクガクでどうにも動けない。
「嫌じゃない。けど! またすぐに、ってのは無理だ。体がもたない」
「信之! 俺、嬉しい!」
感極まった琥珀が、俺を抱き締めキスを繰り返す。
「キスって気持ち良いんだな。初めて知った。あ、キスは大丈夫だよな?」
返事の代わりに頭を撫でてやると、嬉しそうに頬を緩めるが、俺はもう横になりたい。
「もう、もたない。寝かせてくれ。琥珀も一緒に寝ろ」
そう言うと、琥珀は頬を緩めたまま、布団の中に潜り込んできた。体中ベタベタカピカピしているし、シーツもグジャグジャだけど知った事か。今はひたすら体を休めたい。
日が沈んだ頃、漸く自力で起き上がれた。
既にシャワーを済ませた琥珀に指示を出し、シーツを交換して洗濯もさせた。
「腹、減った……」
さっぱりした体で、綺麗になったベッドに倒れ込む。
料理をする気にならないが、琥珀の事を考えると安易にデリバリーを頼めない。火や刃物は危険だからと、琥珀に料理を教えなかった事が悔やまれる。
一食分の冷凍鶏肉をレンジで温め、俺の夕飯は茶漬けで済ます。
食器の片付けを琥珀に任せて、再びベッドに倒れ込んだ。
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