第2章

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 石井は話題を換えてきたが、これもまた答えにくい。 「イ、インド、ネシア……えっと、19歳」  琥珀に答えさせる訳にもいかない。年齢は咄嗟に適当な年齢を言ってしまった。 「19歳? 俺らより若かったんだ。学生さん?」 「いや……えっと……学生じゃない……ああっと、まだこっちの生活に慣れてないし、まだ準備期間……」  石井の手が止まった。暫くの沈黙の後、マッサージが再開されるけど、俺の上には重い沈黙が降り注ぐ。  留学生だと言ってしまえば良かったのか? 日本語の勉強に来ているとか。でも今更遅い。 「ああ、君も覚えると良い。毎回俺がマッサージに来るのも、面白くないだろう?」  漸く口を開いた石井は、いくつかの簡単なマッサージの仕方を、琥珀に教えている。 「よし、これくらいでどうだ? 大分マシになったと思うけど」  自らセミプロと言うだけあって、かなり体が楽になった。 「あ、りがとう……」 「ま、程々にな」  薄く笑いながら石井は帰っていった。 「ちょっと話がある。時間良いか?」  翌日の昼休み、石井に呼び出されて人気のない階段の踊り場に来た。 「言いにくいんだけど……お前、あの外国人に騙されたりしていないか? なんだか、あれじゃ……ヒモだ……」  昨日の石井の沈黙からは、十分予想される言葉だ。 「ああっと、あれでも一応、親戚なんだ。叔父さんが再婚してさ、アイツは奥さんの連れ子でさ、でも、叔父さんの家に馴染まなくてさ、最終的に俺んとこに来たんだ」  昨日捻り出した琥珀の嘘設定をズラズラ並べる。  ……信じてもらえただろうか? 「……そうか……でも、ある程度日本に慣れてきたら働いた方が良いぞ。肉体労働の方が良いんじゃないか。仕事で体使わないとな、体力使うのがお前相手だけじゃ、お前の体がもたないだろう?」  真顔で何気に凄い事を言われたけど、至極真っ当な意見だ。有り難く頷いておく。 「そうだな。考えておくよ。有り難う」  その日の帰りに、早速アルバイト情報誌なんぞを買って、家路を急いだ。 「ただいまー」 「お帰り。……今日は同期はいないのか?」  琥珀は俺の後ろを窺う。 「いない。そんな毎日来ないって」 「そうか」  琥珀は頬を緩めて俺を抱き締めると、短めのキスをした。本当に嬉しそうな顔に、俺の顔もだらしなく緩む。
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