第1章

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 勿論そいつは卒倒しそうな顔色になって、慌て逃げ去った。  逃がしたとあっては責任問題だ。俺は慌てドアを閉めて鍵をかけた。  俺がしっかり鍵をかけたのを見届けた琥珀は、あっさり首を反して部屋の中へと戻って行った。 「琥珀、俺が困ってたから追っ払ってくれたのか?」  部屋の中央で俺を振り返った琥珀は、「そうだ」とでも言うように小さく頭を動かした。 「ありがとな。助かったぜ」  琥珀はもう一度俺を振り返ると、飼育ケースの方ではなく俺のベッドへと近づく。 「あ、おい、下には潜るなよ」  声を掛けつつ、俺は部屋の窓全てを閉めて鍵をかけた。網戸は破られる恐れが有るが、こうしておけば体が大きいので逃げられる心配は無い。  俺の心配を他所に、琥珀はベッドの上、布団の中に潜り込んだ。 「ま、いっか」  夕飯やらシャワーやらを済ませてベッドへ向かうと、そこには寛ぎきった琥珀の姿がある。 「琥珀~……俺そろそろ寝たいんだけど、ケースに帰らないか?」  琥珀は俺をチラリと見上げると、モソモソ動いてベッドの半分程のスペースを空ける。飼育ケースに戻る気は無さそうだ。  確かに琥珀はアミメニシキヘビとしては小さい部類で、体長3メートル程。一緒にベッドに入れない事も無い。が、狭いには狭い。俺は渋々琥珀の空けたスペースに潜り込んだ。先程の事のせいか、琥珀が俺を襲う心配は湧いて来なかった。  俺が睡眠モードに入ると、琥珀がスリ、と少し冷たい体を擦り寄せてくる。その体温や肌触りが気持ち良くて、俺は一気に眠りに引き込まれた。  翌朝、アラームに起こされた俺の片腕に、琥珀の尾の先が緩く巻きついていた。  ベッドを抜け出すと、琥珀も着いてきてベッドを降りる。朝食を摂ったり身支度をする俺の後を、着かず離れず着いて回った。 「……そろそろ会社に行かなきゃならんのだけど……琥珀、ケースに戻ってくれないか?」  琥珀の目を見詰めながらケースを指差すと、琥珀は俺と暫く目を合わせた後、舐めるように肩、腕、指先へと視線を巡らせた。そのままスルスルと俺の指差す先、ケースの中へ入って行く。 「そうそう、良い子で留守番しててな」  ケースの扉をきちんと閉め、俺は部屋を出た。 「ただいまー」  声を掛けながら玄関の扉を開けると、俺と視線を合わせた琥珀が、ケースの扉を内側から軽くつつく。
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