第1章

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 それくらいで開くような柔な造りではないが、琥珀は俺を見るのと扉をつつく仕草を交互に繰り返す。 「お散歩の味をしめちゃったかな……」  もう一度部屋の戸締まりを確認して、ケースの扉を開けると、やはり琥珀はスルスルとケースから出てきた。  部屋着に着替えて琥珀に餌をやり、その後自分の夕食の支度をして食べた。  琥珀は朝と同じく俺の後を着いて回り、やっている事を逐一見詰めてくる。 「これ、食いたいのか? ……あー……蛇には蛇の体に合った食い物があるからな、人間用は我慢な」  余りに見詰めてくるのでそう言ってみると、わかったのかわからないのか、俺の背後に回って体を横たえた。尾の先だけが俺の太股に寄り添ったり腰に巻き付いたりしてくる。 「ちょっ! くすぐったいって」  脇腹をスリスリ擦られれば、流石にくすぐったくて身を捩る。  少し間が空き、今度は背中や肩をピタピタ軽く叩きだした。 「ん。それなら大丈夫」  俺の反応に良しと見たのか、夕食が終わるまで、規則的にピタンピタンと俺の背中で琥珀の尾が動いていた。  その日から、俺が部屋にいる間は琥珀がケースから出て、俺の後ろをくっついて回る生活になった。まるで犬か猫のようだ。俺が出掛ける時には、大人しくケースに戻ってくれるので負担は感じない。  それどころか、いつしか一緒に食卓に着くようになり、俺はその日あった出来事などを、冷凍ラットを喰らう蛇に向かって話しかけるようになっていた。  琥珀は、冷凍ラットを食べた後は俺の食事を欲しがるでもなく、静かに俺の話を聞いている。  朝食の席では、琥珀は何も食べないので、俺の着席と共にテーブルの向かいに頭を乗せてジッと俺を見ている。  ある朝、琥珀をケースに戻し、部屋を出ようとした時に姉から電話がかかってきた。  漫画家のアシスタントをしている姉は実に不規則な時間帯で生活をしている上に、家族に電話をかけてくる時も、自分の気の向いた時間で行動を起こす。 「そろそろ切って良い? 夜にかけ直すからさぁ。俺、これから出勤なんだけど」 『それがどうした。駅まで歩きながら聞きなさいよ』 「あー……はいはい。で?」  いつもよりも遅くなったために、携帯電話を耳に当てながら靴を履いて、慌て部屋を飛び出した。
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