第1章

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 褐色男は自分の眼を指差す。「見ろ」と言う事だろうか。  俺と視線が合ったのを確認すると、褐色男は電灯の方に顔を向ける。  何が言いたいのかわからなかったが、長いウェーブの黒髪から覗くそいつの眼を見ていると、驚いた事に、瞳孔が猫のように縦長に細くなっていった。 「そんな……」  琥珀の眼でよく見掛けた現象だ。 「まだ、わからないか?」  褐色男は目を閉じて顔をしかめる。今度はなんだろう。握られた腕に更に力が加わった。 「い、痛ぇって!」  声を上げた瞬間、力が緩んでほっとしたのも束の間、俺は目を疑った。  俺の腕を掴んでいた骨太な褐色の指が見る間に縮んでいき、腕すらもなくなっていく。  メキメキと骨の軋む音を立てながら体が細く長くなり、淡い褐色の色は変えないまま皮膚が鱗になっていく。  どれくらいの時間だっただろうか。音が止んで、そこには琥珀が横たわっていた。 「わかった、お前が琥珀だってわかったから。……ごめんな怒って、怒鳴って」  床に座り込んで滑らかな鱗を撫でると、いつもより体温が高い事に気が付いた。 「もしかして、体キツイか? 体を変えるのって大変な事なんだよな?」  横たわった体をラグの上から、キッチン前の床に移動させる。冷たい床の上の方が良いような気がしたのだ。 「餌は……食う気にならないか……」  いつもなら俺の言葉に反応して頭を上げるのに、むしろ顔を背けた。  着替えを済ませて、冷凍庫から自分用の鶏肉を出して解凍する。栄養バランスが悪いかとは思うけど、丸のままのラットよりは消化に良い気がする。 「琥珀……これな、小さくした鳥の肉。食えるか?」  口先に近付けると口が開いたので、入れてやる。  三つも食べると顔を背けてしまった。  いつもなら俺の後を着いてまわるのに、ぐったり床に横たわったままで、時折冷たい床を探して体をずらすだけ。  俺がベッドに入る時間になった。  いつもなら何も言わなくても、状況から察した琥珀が先にベッドに上がるが、今日は動かない。 「琥珀、今日はどうする? ベッドだと体冷めないと思うんだけど、床の方にする?」  琥珀は冷たい床を探して、また体をずらしたけで、俺の方に近寄らない。 「わかった。ベッドに入りたくなったら来て良いからな」  琥珀の頭を撫でて、俺はベッドに入った。
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