第1章

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 朝、目が覚めると、南アジア系の男が目の前、いや、俺と一緒の布団の中にいた。 「おはよー」 「っ!! ……あだっ!」  驚いて跳びすさったら、ベッドから落ちてしまった。 「お前、大丈夫か?」  思い出した。人間になった琥珀だ。また無理をして、体を変化させたようだ。  額に手を当てると、ほんのり俺より温かい。 「まだ熱が高いな。今日は一日大人しくしてろ。大体、本来は夜行性だろ」  人型をしているので、額に冷却シートを貼って毛布を掛けてやったが、「やだ」と、毛布を剥いでしまう。  毛布は暑いのだろうが、そもそもこいつは昨日から全裸だ。 「いや、待て待て待て。それは流石にまずい。ちょっと待て」  慌てて俺の持っている服の中から大きい物を探す。  Tシャツとジャージの下を出して、全裸の琥珀の腰を盗み見る。いや、無理だ。俺のパンツに収まる骨格じゃない。  身長は175cmの俺よりちょっと高めだから、180cmくらいだろう。だが、問題は体の厚みだ。骨太で筋肉もしっかりついているから、パンツは2Lが必要かも知れない。  服を渡すと、いつも見ていたせいか、もたつきつつも、何も教えなくても一人で着られた。俺がゆったり着ている服がピチピチだけど。  その格好で琥珀は床の上に転がって、俺の朝の支度を見ている。 「お前、名前付けなきゃな」  唐突に琥珀の口から溢れた言葉に、一瞬思考が停止する。  そう言えば、琥珀には俺の名前を教えていない。琥珀に命名した時の台詞を持ち出したと言う事は、俺を名前で呼びたいと言う事だろう。 「俺の名前は、信之、柏葉信之(かしわばのぶゆき)。信之って呼べば良いから」 「信之、信之……」  呟きながら床を這ってくると、琥珀は俺に頬擦りした。 「俺の所に来てくれてありがとな~」  ガタイの良い男に頬擦りされて固まってしまったが、またしても琥珀は俺の言葉をトレースしていた。  日本語は全て俺の会話で覚えたんじゃないだろうか。 「とっ……とにかく、今日は大人しく留守番してろよ」  その言葉に琥珀は頷いて、床に再びへばり着いた。 「ただいまー」 「ただいまー」  帰宅した俺の第一声に、琥珀はおうむ返しした。そうだ。昨日もそう言った。 「琥珀、俺が『ただいま』って言ったら、『お帰り』って言うんだ。ほら言ってみな。ただいま」 「……おか、えり」 「そうだ。上手だな」
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