第1章

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 褒めて頭を撫で、ついでに額に手を当てる。熱は下がっていて、今は俺より低く、いつもの琥珀の体温だ。 「餌、食いたい」  床に転がったままの琥珀が元気なく呟く。 「そうだな。腹減ったな。もう少し待っててな」  琥珀の体は一体どこまで人間化しているのだろう。  眼は蛇のままだったが、流石にラット丸のままは、人型では食べられないだろう。……だからと言って、俺もラットに包丁を入れて調理する気にはなれない。  取り敢えず、鶏肉だけではあのガタイに見合わないと思って、豚肉も合わせて、油無し調味料無しで炒めた。 「信之、俺、人間用、食いたい」  俺用に野菜を炒めていた俺の腰に、琥珀がしがみついてきた。 「わかった。わかったからあっちで待ってろ。火を使ってる時は危ないから」  俺用の野菜炒めには玉葱が入っている。犬猫には葱類が駄目だと聞く。念のため、玉葱無し調味料無しの野菜炒めを作った。 「ほいじゃ、いただきまーす」 「いた、だき、まーす」  琥珀も俺に倣って手を合わせていただきますをする。  いつも俺を見ていたので、箸も積極的に使おうとする。少し教えてやれば、ぎこちないながらも、ちゃんと物を挟めた。  だが、嬉々として口に放り込んだ野菜を丸呑みしようとして、喉を詰まらせてしまった。 「待て待て! 一度出せ!」  慌て背中を叩いて吐き出させる。 「あのな、琥珀、口開けろ。人間の食べ方は、この歯を使って小さく噛み砕いてからのみ込むんだ。ほら、蛇の時と歯が違うだろ」  琥珀の口の中は大分人間仕様になっている。ちょっと八重歯が鋭いが、ちゃんと臼歯もあるし、先が少し割れていて細身だけれど、舌もほぼ人間と同じだ。  俺が咀嚼してからのみ込む様子を神妙な顔つきで見詰め、真似をする。  今度はしっかりのみ込む事が出来た。 「旨いか?」 「旨い!」 「肉もしっかり食えよ」  琥珀にはご飯を用意しなかったが、肉と野菜の炒め物で満足したようだ。体格と摂取カロリーが見合っていない感じがするが、体温から察するに変温動物な部分があるのだろう。  俺が食べ終えた後、一緒に「ごちそうさま」をして、俺が片付ける様子をすぐ横で楽しそうに見ている。  もしかしたら、琥珀には、人間になってやってみたい事が色々あるのかも知れない。その想いが募って姿を変化させる要因になったのかも知れない。
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