第1章

9/10
前へ
/26ページ
次へ
 色々考えてしまうけど、今考えるべきは、琥珀が健康に生活する方法だろう。そもそも、人型でい続ける事自体も大丈夫なのかどうか。早々体を変化させられない事はわかったが。  表情筋はまだ固いものの、全身から滲み出る琥珀の感情はわかる。凄く楽しそうに人型で動いている様子を見て、琥珀を全力で守る決意をした。  その後、新たな発見と問題が生じた。  まず風呂だ。折角人間になったのだから入りたかろうと思い、初日は一緒に入って色々教えるつもりでそれに気が付いた。  全裸の時は敢えて見ないようにしていたが、体を洗う時はやはり見てしまう。  男に付いている筈の器官が見当たらない。人型の容姿を見れば男にしか見えないし、ショップでも雄だと言われた。つまり、その器官は蛇のままで体内に収納されているのだろう。  風呂から出たら、寝床の事で揉めた。  平熱に戻ったのでベッドで寝たがるのだが、蛇よりも幅を取るようになった体格で添い寝はキツイ。そもそも、男二人で添い寝ってどうだよ。 「二人一緒じゃキツイだろ? 俺が床で寝る」 「やだ」  琥珀は床に寝ようとする俺をベッドに引きずり込む。 「じゃあ、琥珀が床で寝るのか?」  床を指差してみる。 「やだ」  琥珀は俺にしがみついて梃子でも動かない構えだ。  らちが明かないので、結局狭いベッドで寝たが、低い体温の琥珀にくっつかれて、思いの外良く眠れた。  翌朝は目の前にいる琥珀に驚く事なく、すっきりした寝起きだった。 「おはよー」 「おはよう」  挨拶を返して琥珀の体調が良さそうな事を確認し、二人分の朝食を用意する。  少ない量だか、琥珀にしてみれば初めての朝食だ。しかし、俺の心配をよそに、琥珀は美味しそうに平らげた。 「今日は俺が仕事から帰って来たら、一緒に買い物に行こうな。服とか、食料品とか」  琥珀は喜んで飛び付いてきて、頬擦りをする。ゴツイ男になっても蛇の時と同じ行動が出るのは、少し微妙な気分だ。 「じゃあ、行ってきます」 「おか……行って、らっしゃい」  教えた通りの挨拶に見送られ、俺は仕事に向かった。  人間の生活に不慣れな琥珀を一人で外出させる訳にいかないので、俺が仕事に行っている間は、教育テレビを見せて留守番させた。  仕事以外はなるべく一緒に出掛けて、人間の生活を教える。琥珀はいつも楽しんで、どんどん吸収していった。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加