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だが、夕暮れの教室で美羽は一人演技を続けていた。
台詞に感情が乗るのは、彼女の想いがこもっているからだ。周りから合格をもらおうと関係ない。もっと素晴らしい演技をしたい、と美羽はきゅっと掌を強く握りしめた。
憧れの先輩は受験が控えているため、今回が最後の舞台となる。そんな彼女へ他の人物が渡す言葉やプレゼントとは別の、自分だけしか渡せないものをあげたいと思ったのだ。
好意を持った憧れは、甘く切ない色を宿す。
気付いてもらいたいわけではない。ほのかな気持ちを胸に、誰よりも先輩を応援している後輩がいたのだと覚えてもらえたら、嬉しいと願っている。誰よりも先輩が大好きだと慕っていた子がいたのだと――……。
「“ああ、あなたが迎えに来るのを夢見て眠りましょう”」
制服姿の少女は、手を重ねて祈る仕草をする。
日が傾き始めた教室で、真剣に演技を続ける美羽は可愛らしい姿を儚く見せた。衣装を身にまとっていないはずが、そこに物語の姫がいるほどの存在感がある。
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