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広場に近づくにつれ、喧噪がいっそう激しくなっていく。
その中で、喧噪に混じって流麗な音色も聞こえてくる。聞き慣れたこの音は、横笛カラクの音色だ。
音色のする方はずいぶんと盛り上がっているらしい。
しかし、ずいぶんと良い音色だ。吹き手の技量はかなりのものらしい。
「おう、来たか」
人混みの中、ハウェイが串焼きを手にゆっくりと歩いている。
その串焼きを受け取りつつ、また音色に耳を傾ける。
「ん? ああ、なんでもラフィルギルドの楽士が休暇がてら来てたらしくてな。特別にタダで演奏してんだとよ」
専属の踊り子も色っぽかったなぁ、と漏らしながらハウェイは串焼きを頬張る。
ラフィルギルドと言えば楽士ギルドの中でも最大手とも言える存在だ。そこに所属している楽士となれば、何処に行っても通用する一流所として扱われる。そんな人物が休暇と称して、こんな田舎に来ていて、ただで演奏とはずいぶんと都合の良いこともあったものだ。
「んじゃまぁ、俺は俺で楽しんでくるぜ? 良い酒と女が俺を待っているってなぁ」
下心見え見えのことを呟きながら、ハウェイは再び人混みの中に消えていった。
仕方なく、ゆっくりと人混みに流されるように祭りを回っていった。
なんでも、この祭りは先祖へのメッセージを送る儀式が始まりらしい。祭壇の炎に先祖へ送りたい物を投げ入れ、灰とともにそれは天へと昇っていくという。中央広場では炎を囲むように人々がにぎわっている。
そんな光景をよそに、彼女は人混みから少しはずれた位置で軽めのカクテルを手に眺めていた。
ゆっくりと、酔いも回りだし気分は久しぶりに非常に良い。
そんなときだった。
「あら。あなた、面白い刻を背負ってるね?」
「え?」
急に声をかけられ、思わず間の抜けた声を上げてしまった。
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