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「君はまだ、あの男の事を想って」
「想ってないですっ!」
「じゃあさっきの発言は何なんです? あんな風に言われたら、誤解を生むじゃないですか」
「自分の好きだった人が弱々しくなってる上に、元カノの事を引きずってる姿なんて、見たくなかったんです。自分から振ったくせにって」
またしても姉ちゃが怒りだした。兄ちゃはどこか、寂しげな顔をしたままだ。
「まぁ、確かに。付き合ってた相手の無様な姿は、あまり見たくないですね」
「正仁さん女心分かってないから、ここぞいう時がダメなんです。確かにこのピアス嬉しかったけど、私が欲しいのは、正仁さんと一緒に過ごす時間なんですよ」
「ひとみ……」
「ずっと仕事が忙しくて、まともに話す時間なくてすれ違ってばかり。なのに彼女の話は、ちゃんと聞いてあげてましたよね。私、寂しかったんです」
「それは、済まないと思っています」
兄ちゃが謝ると、姉ちゃは目にいっぱいの涙を溜めて睨んだ。
「まっ、正仁さんのうつけ者!」
ワケの分からない言葉を言い放ち、姉ちゃは寝室の中に入って行った。勿論、扉をズガンッと閉める。
あまりの煩さに耳を後ろにして兄ちゃを見上げると、メガネの奥の目が寂しそうに光っていた。泣いたのかにゃ?
まじまじと見つめていると、ため息一つついて、そのままお家を出て行ってしまった。
一体兄ちゃと姉ちゃは、どうなるにゃ……
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