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「にゃ~」
兄ちゃが出て行ってしまった、もしかして戻ってこないかもしれない。うつけ者の意味は分からないけど、兄ちゃがすごく傷ついたのは見ていて分かった。
――人間って面倒な生き物だにゃ。
オイラみたく喜怒哀楽を言葉で伝えれば(にゃ~語しか言えないけど)相手がどう思ってるのか分かるのに。
かといってさっきみたく思った事を言い合ったら、ケンカになるんだよなぁ。お互い好きあっているのに、どぉして上手くいかないにゃ。
落ち着かなくて体の毛繕いを始めたら、姉ちゃが寝室から出てきた。
「にゃ~」
オイラが駆け寄ると、寂しそうな顔をしてリビングを見渡す。
「正仁さん……出ていっちゃったんだ。当然だよね」
「にゃ~、にゃん」(姉ちゃも男心が分かってないにゃ)
「はあ。何かもう、頭がぐちゃぐちゃ」
頭を抱え込みしゃがんだと思ったらすぐに立ち上がり、戸棚の大きな扉を開けて、中から変わった形の瓶を取り出した。
「にゃ~」(何それ)
いつも使わないコップを出して、テーブルに置く。
オイラが椅子に上がりテーブルに前足をかけて、姉ちゃの様子を見た。相変わらず寂しそうな顔をしたまま。
「今夜一緒に呑もうと思って、しまっておいたんだけど……」
「にゃん?」(呑むの?)
瓶の蓋を開けるとキュポンといい音がし、途端に鼻につくイヤな香り……この香りは兄ちゃがテンション高くなって帰って来た時に、嗅いだ事があるニオイと同じにゃ。
もしかしてコレ呑むと、あの時の兄ちゃみたいになるのでは――ハッ!
「にゃにゃにゃにゃ~!」(呑んだらダメにゃ、お願いだから!)
「ふふ、変に静かだからって、気を使って鳴いてくれてるの? それとも呑みたいとか?」
「にゃにゃん、にゃ~!」(違うにゃ~!)
「これはお酒だからあげれないよ、ごめんね八朔」
「んにゃ~」(頼まれても呑まないにゃ)
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