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「八朔、今回は許しますけど、もうテーブルに上がってはダメですよ」
微笑みながら兄ちゃが、オイラの頭をガシガシ撫でる。何となく恥ずかしくて肩をすぼませながら、手の平の温もりを感じた。
兄ちゃが帰って来てくれて良かったと、心から安心して姉ちゃの方を見ると、複雑な顔をしたまま佇んでいる。
「君は一体、何を考えているんです?」
オイラに話しかけた時とは違う、怒気を含んだ声。
「こんなにハイペースで度数の高い酒を呑んだら、急性アルコール中毒になる可能性があるんです。ましてや君は、お酒に強くないんですから」
「私がアル中になったって、正仁さんには関係ないです。放っておいて下さい」
「まったく、かなり酔っ払ってますね」
兄ちゃが姉ちゃに向かって右手を伸ばして、頬に触れようとしたら――
「嫌っ、触らないでっ」
パシッとその手を叩く。姉ちゃが兄ちゃを完全に拒絶した。
「正仁さんなんか……キライです」
キライと言われてるのに兄ちゃは優しい目をして、姉ちゃをじっと見つめている。どぉしてこんなに、落ち着いてられるのかにゃ?
オイラは嫌いなんて言われた日にゃ、大好きなゴハンが喉を通らなくなると思う。
「あの時と同じですね。今となっては懐かしい」
「あの時って?」
「俺が君に告白の歌を唄った後に、告白の返事を聞いた時と、同じ状況だと思いまして。そうやって背を向けて肩を震わせながら、無理ですって言いましたよね」
「あ……」
「嘘をつくのが下手だから、バレバレなんですよ。どうして、俺を遠ざけようとしたんです?」
「これはその……嘘じゃないですから」
そっぽを向いた姉ちゃに、ちょっとだけ近づく。
「じゃあ俺の目を見て、それを言って下さい」
姉ちゃの体がピクリと動いた。兄ちゃは腕組みをしたまま、じっとしている。振り向く姉ちゃが、遠慮がちに口を開きかけた時。
「おいで」
腕組みを解き、両手を広げた兄ちゃ。
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