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グーにしていた両手を兄ちゃの首に回して、ぎゅっと抱きついた姉ちゃ。好きや嫌いと違う感情って何? オイラには、難しくてよく分からないにゃ。
「正仁さんが、ロマンチストなのはよく分かっているんですけど、お願いだから心霊スポットに連れて行くのは、もう止めて下さいね」
「わかりました。今度からそこの所も踏まえて、下調べしてから行きましょう」
「あと私の事を重ねてるからって、他の人に見とれないで下さい」
「君も前カレが現れたら、しっかり拒否って下さい。この間、優しい言葉をかけたからつけ上がったから、未練がましい事を言ったんですから」
「分かってます」
あの~お二人さん、大事なコトをお忘れなんですが――
イチャイチャしている二人の足元を、ウロウロしてアピールしてみたのだが、見事にスルーされる。
「あ、もうこんな時間。お風呂にお湯溜めなきゃ」
照れた姉ちゃが兄ちゃの体を両手で押して離れると、慌てて浴室に向かう。兄ちゃは片側の口角をいつものように上げて、ゆっくりした足取りであとを追った。
「なっ、何しに来たんですかっ?」
「浴槽にお湯が溜まるまでの五分間に、あんな事やこんな事をしようかと思いまして」
そして閉ざされる浴室の扉の前に、オイラはへたり込んでしまった。二人が仲良しになったのはいいことだけど、大事なものを忘れてる。
「に゛、にゃあ」
お風呂からの音でかき消されるオイラの声。鳴いたところで、気がついてくれるワケないんだけど。オイラの晩ゴハンは、どうなるのにゃ~。
やっぱり居候って大変……
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