第1章

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 朝6時、起床。  体調の変化、状態を確認する。 問題点が無い。(あった事は特に無い)  リュカーオーンの一族の末裔として 現当主になって以来、1度も確認は怠らない。 まだ262年間しか過ぎていないが。  洗顔や歯磨き等を済ませた頃に 執事の者が、扉をノックする。  普段通りに入室を促すと 彼は移動式キャスターの付いたダブルハンガーを 室内へ運び込む。 「おはようございます。お嬢様。 本日はいかが致しましょう。」  この男の名前を知らないが 執事である以上、着替え程度で 我が身に羞恥心などは無い。 使用人とは道具でしかない為だ。 「本日は曇天であったのですが、 先ほどから少しばかりの雨がありまして、 傘を用いる者が多い様子です。 上空からでも、建造物を背になさって頂ければ、 お好みの食材を吟味できるかと思う所存です。」  自分で摂取する食料は自身で選択して確保する。 これは代々、この家の慣わしでもある。 獲物を捕獲した時、生死を別にして 多くの返り血でドレスを汚す事は珍しくない。  代わり等、幾らでもあるとはいえど 私にも「お気に入り」というのはあるのだ。 最も好んでいるのは、素肌と毛皮の二種なのだが。  無論、毛皮のままに外へ狩りへ出るのも 一興だとは、よく思うのだが 血筋か性格かは興味がないものの 仕留めた直後に全裸に戻るのは、聊か恥である。  人間の常識や感情には、共感しないだろう。 素肌を見せることではなく、それをこそ 本能というのか、虚飾というのか。 ここ数百年程、それは考えている。  分厚い雲に染めて、グレーのドレスを選ぶ。 ドレスは当然として、革の靴も執事の男が履かせる。 私は男の跪いた太ももに足をのせるだけだ。 手入れと髪のセットが終る頃。  朝7時、屋敷内を一瞥して歩く。  下女が深く礼をして、仕事へ戻っていく。 執事の男は「狩り」に同行するかどうかを 毎日確認してくる。 つまり、後始末と獲物の運搬を示している。 普段ならば当然、無駄なく有用に仕事を任せるが  良くない日  というクリーンな気持ちになる事があるのだ。 そういう日には犬歯が欠けたり、耳慣れない音楽が聴こえる気がしたり、 血塗れのドレス姿を路地裏で目撃された事もある。  その日は被害者、目撃者を装って、病院から脱出した。 こういう時、執事の男は常に自家用車を待機させている。
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