第1章

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知ったことではないし、我々の責任でもない。 但し、人間どもは我が種族は吠えたけない事を知らぬ。  獲物は素早く確保する、手間暇はかけない。 爪で裂き、牙で仕留める。 ドレスの内側に生暖かく湿った生血が 私に確認する事を要求してくる。 262年間は怠っていない。  帰宅すると執事の男は出迎えながら、バスルームで血を洗うか、 血が冷えて固まるの確かめながら、別のドレスに着替えを致しますか? それとも朝食を取りやめて、休息をなさてから昼食の素材としますか。 この場合の血抜きは滞り無く。  朝8時、普段なら既に食卓に座っている時間。  そこで私は執事の男に三つの質問をしてみた。 執事の男は如何なるご質問にも忠実のままにと言う。 「まず一つ目、あなたは誰?」  この質問には何の躊躇もなく、丁寧で落ち着き払って即答してきた。 「私は名は御座いません、その代わりに神の加護によってお嬢様をお守り出来ます。」  予想はしていたが、やはり自分と近くとも同種族ではないようだ。 少なくとも私は神に無縁だ。その為の結節点のようなものかもしれない。 実は興味が無かった。 「では二つ目、名前か他者から呼ばれたことがあるなら、その答を。」  この質問では執事の男は、少し血の気が引いたような素振りだったが それさえも嘘に感じていた。 「私は”ウールヴヘジン”と呼ばれていた時期がありました。 個人的な固有名詞は持っておりません。またその呼び名も数百年程前から どなたをお使いになっていません。お嬢様を含めて当家の 全ての御当主、御一族の方々も同じに御座います。」  古い話に興味が無いという訳じゃない。 きっと私に関与しないと思う。 「それでは、最期の質問なのだけれど。」 「はい、お嬢様、何なりと。」 「本日の遅めの朝食は、ウールヴヘジン、貴方を食する事にする。」 「畏まりました。では、食堂にてお待ち下さいませ。」 「ご苦労。」  朝9時、朝食と葬儀。 仕留めた直後に全裸に戻るのは、聊か恥である。 人間の常識や感情には、共感しないだろう。 素肌を見せることではなく、それをこそ 本能というのか、虚飾というのか。 ここ数百年程、それは考えている。 分厚い雲に染めて、グレーのドレスを選ぶ。 ドレスは当然として、革の靴も執事の男が履かせる。 私は男の跪いた太ももに足をのせるだけだ。 手入れと髪のセットが終る頃。
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