7人が本棚に入れています
本棚に追加
「裕二おはようー……もう大学に行ったかな?」
まぶたも開かず、裕二が寝ているだろう右側をポンポン叩き、彼の不在を確認した。
すると。
温かい、プラスチックと思われる球体が手の甲に転がり乗ってきた。バイブレーターが振動しているように感じた。
「ぎゃっ」
小さな声をあげて、起き上がる。
手のあったところを見る。直径20センチくらいの乳白色にうっすら光る球体があった。
なにこれ。
すると、白球に下側が欠けた三日月のようなマークがひとつ、表示された。それだけで、なんだか笑っているように見える。
裕二のイタズラか。
白球を力一杯叩いた。
すると、水蒸気をプッと噴いて、ゴロゴロと自らあちこちへベッドの上を転がった。
コイツ、怒ってるのか?
裕二は院生で、学校では人工知能の研究をしている。だから、ひょっとしたらこの球体はコミュニケーションできるおもちゃなのかもしれない、って、考えるよね。
「裕二ー、愛してるー!」
と甘えた声を掛けると、白球はほんのり桃色になった。そして、さっきと同じニッコリ笑った目のようなマークが表示された。
裕二め、おもしろいモノを作って。
あたしは朝の支度をしながら、ベッドの上の白球に話し掛け、様子を見て遊んでいた。
「あなた、なんて名前なの?」
いつしか、人に話し掛けるようにピアスをつけながら、声をかけていた。
白球に、駅の電光テロップみたいに短文が流れた。
「MEDA」
(目だ!?)
センスの悪さに失笑。
「行ってくるね、めだ」
そう言ってドアを閉めた。
大学に着き、まっしぐらに講義を受ける部屋に入る。いつもの仲間が騒然としていた。小声を表現するかすれ声なんだけど、少し上ずり、ふつうに話すのより音量はむしろ大きかった。こんな数学みたいな感じ方をするようになったのも、裕二と付き合ってからかもしれない。
「第2AIラボに居た篠田教授が襲われたってマジなん?」
「不審者が夜の研究室に侵入して、教授にナイフ突きつけたとか」
「命に別状ないけど、大事をとってしばらく講義、休講らしいね」
「こえええ……」
第2AIラボって、裕二の研究室だ。
「おはようおはよう」
「あー。彼氏の裕二さん、なんか言ってなかった?」
あいさつに返事なしで情報収集ですか。
「わかんない。起きたら裕二は居なかったし」
「えー。連絡取ってみなよー。心配じゃない?」
ごもっとも。
最初のコメントを投稿しよう!