球体はふたたび

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「裕二おはようー……もう大学に行ったかな?」  まぶたも開かず、裕二が寝ているだろう右側をポンポン叩き、彼の不在を確認した。  すると。  温かい、プラスチックと思われる球体が手の甲に転がり乗ってきた。バイブレーターが振動しているように感じた。 「ぎゃっ」  小さな声をあげて、起き上がる。  手のあったところを見る。直径20センチくらいの乳白色にうっすら光る球体があった。  なにこれ。  すると、白球に下側が欠けた三日月のようなマークがひとつ、表示された。それだけで、なんだか笑っているように見える。  裕二のイタズラか。  白球を力一杯叩いた。  すると、水蒸気をプッと噴いて、ゴロゴロと自らあちこちへベッドの上を転がった。  コイツ、怒ってるのか?  裕二は院生で、学校では人工知能の研究をしている。だから、ひょっとしたらこの球体はコミュニケーションできるおもちゃなのかもしれない、って、考えるよね。 「裕二ー、愛してるー!」  と甘えた声を掛けると、白球はほんのり桃色になった。そして、さっきと同じニッコリ笑った目のようなマークが表示された。  裕二め、おもしろいモノを作って。  あたしは朝の支度をしながら、ベッドの上の白球に話し掛け、様子を見て遊んでいた。 「あなた、なんて名前なの?」  いつしか、人に話し掛けるようにピアスをつけながら、声をかけていた。  白球に、駅の電光テロップみたいに短文が流れた。 「MEDA」 (目だ!?)  センスの悪さに失笑。 「行ってくるね、めだ」  そう言ってドアを閉めた。    大学に着き、まっしぐらに講義を受ける部屋に入る。いつもの仲間が騒然としていた。小声を表現するかすれ声なんだけど、少し上ずり、ふつうに話すのより音量はむしろ大きかった。こんな数学みたいな感じ方をするようになったのも、裕二と付き合ってからかもしれない。 「第2AIラボに居た篠田教授が襲われたってマジなん?」 「不審者が夜の研究室に侵入して、教授にナイフ突きつけたとか」 「命に別状ないけど、大事をとってしばらく講義、休講らしいね」 「こえええ……」  第2AIラボって、裕二の研究室だ。 「おはようおはよう」 「あー。彼氏の裕二さん、なんか言ってなかった?」  あいさつに返事なしで情報収集ですか。 「わかんない。起きたら裕二は居なかったし」 「えー。連絡取ってみなよー。心配じゃない?」  ごもっとも。
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