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「川沿いの道をのぼっていくと、崖があってな、そこにしばーらく、立ってたかなあ?」
「ありがとうおじいさん」
礼もそこそこに立ち去った。
まさかと思うが、裕二が自殺を企てた可能性が出てきたじゃないか。
早歩きがやがて、小走りになっていた。
川が見えてきた。沿って続く小道をぐんぐん進む。
断崖絶壁はどこだ?
と。
向こうからとぼとぼ、白いワイシャツにデニムパンツの、見慣れた男が歩いてきた。
裕二だ。
あたしは裕二にすがりついた。
「MEDAは気に入ってくれた?」
「何言ってるの……コイツ」
裕二はアタマをぽんぽんと叩くと、あたしの両肩に手を遣り、目線の高さを合わせて、
「立ち話はよくない。帰ろう」
そう言って、あたしの背中に細っこい腕をまわし、裕二が来た道を引き返していった。
裕二は古民家の引き戸を開けると、涙でぐずぐずになったあたしの顔前に手拭いを差し出し、
「空調完備とはいかないけどね、どうぞ」
と背中を押した。
「昔話に出てきそうな家」
呟いたら、
「ね。囲炉裏に飯炊き釜ってどうすりゃいいんだか」
と言いながらニヤニヤ笑っている。
「ご飯どうしてるの? なんで突然こんなところに逃げてきたの? 篠田教授が襲われたらしいんだけど知ってる?」
あたしは座布団にぺたんと座ると、MEDAを抱えながら矢継ぎ早に質問した。
と、MEDAが振動しはじめた。
なんだか、あたしの腕から出たがっているように思えたから、床に放した。
ゴロゴロゴロゴロ転がりながら、表面に「(^^;)」。
あたしは、もう一度、目尻に涙を浮かべ、キッと裕二を睨みつけた。
「優秀だろ? こいつ」
困り顔を作りながら、とんちんかんなことを言うから、
「違うでしょ? 心配したん……」
しおらしく、さめざめと泣いてみてやった。
実際、心配した。怖かった。
ならば、何が怖かった?
裕二に何かあっても、彼にかかわらきゃ、あたしに危害が加えられることはない気もするし。つまり、そういうことじゃないんだ。
「人間っていつごろ生まれたか知ってる?」
裕二。
どうしてわからんか。
その程度のことがわからんで博士号を取ろうなんて片腹痛いぞ。
「ええとね、ボクは異なる2つの生命がコミュニケーションを取れるようになったところが、人間の起源だと思ってる」
「あー。違うでしょ? 裕二はだから、なんで……」
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