第1章

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 嘘をつく仕事というのがある。 別に詐欺とか、犯罪の類ではない。 ゲームの仕掛け人という意味でもない。  ただ嘘だけを突き通せばいいという仕事である。 俺は「嘘つき屋」というわけ。 繰り返すが「詐欺師」と間違えない欲しいね。  なにせ、これが意外にも需要がある。 嘘をつかれたいのか、嘘を暴きたいのか それは知らないが、依頼者と嘘つき屋である俺個人以外を 嘘に巻き込まない契約なので、第三者を騙す為には 嘘をつくことは出来ない。  いまから思えば、何故こんな下らぬ仕事に 需要があり、しかも嘘の内容、突き通す期間 それを嘘とバレぬようにする、アリバイ工作など 少なからず経費やら、手間がかかるのではあるが 所詮は、たかが嘘である。  世界は揺るがないし、社会は覆らない。 極稀に世間に笑いや驚きを娯楽的に提供する結果になっても 精々、話題になるのは一週間が関の山である。 人々は忙しいし、世の中は常に流転している。  故に、苦労と感じる嘘つき屋も入れば 副業で趣味としてやっている奴もいるらしい。 俺は前者かもしれない。  かなり繊細な緻密な嘘をつく為に プロットの作成から、作業開始段階までを 徹底して圧縮し密度だけは上げていく。  それで顧客が満足するかといえば そうでもない。 コミケなどを見学しに行くと痛感する。  全て必要とされ、同時に提供が目的を個別にクリアしている。 従って、ゴミが発生しない。これは嘘が無い事に由来する。 ゴミがゴミという立場で存在できる場所が無いからだ。 クオリティの差はある。人気の違いもある。従って嘘が無い。  つまり俺の仕事場ではないわけだが、 これは嘘か?真か?  そこじゃないんだ。 何せ嘘を欲しがる理由が、千差万別であり 全てに対応するのは無理だ。 自分なりのテンプレも、存外役に立たぬとすぐに破棄した。  だから俺は多分、安い。 俺は全身で嘘を捻り出して、全霊で嘘を形成しているつもりだ。 その報酬は、具体的に金額は明かさないが安い。  何故なら1円でも1億円でも俺が安いと感じれば安いのだ。 そして、年中嘘をつき続けている俺の年収も実に安い。  嘘には幾つかの、分類があるのだが まずこれが嘘である。 だが種類があるというのは、他者の考えを考慮すれば 嘘とまでは言えない。  ばれてしまう嘘、ばれないままでいる嘘。 この二種は俺の生活に大きく関わる。
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