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【大和side】
たしかに、『ふり向かずに』とは言いましたが…
それでも私が言ったとおりに、ふり向かないでいてくれる事がうれしかった。
朔也様の髪をなでながら、前に回りこんでそっとだきしめた。
そのまま顔を上げて部屋の中を見ると、けいさつの人達にうでをひねり上げられて苦しそうな日下部が見えた。
「お前ッ!なぜ援護しない!」
そうさけんだ日下部が見ている先には、うたれて血が出ているうでをおさえたまま日下部を見下ろす男がいた。
「……援護?利き腕撃たれて武器も持てない、おまけにその武器もアンタが持ってっちまって…こんな状況で、手負いの上に丸腰の俺に出来る事は何もねぇよ」
「……くッ…」
日下部は、その場にゆっくりとヒザをついた。
その日下部に手じょうをかけたけいさつの人が、うでをおさえている男に話しかける。
「お前達2人は、日下部とどういう関係なんだ?我々が突入した時、もう1人が『何の為に手を貸したのか思い出せ』と言っていたが…あれはどういう意味だ?」
「アンタ…警部さんだっけ?それに答える前に、あの人の傍(そば)に行かせてもらえないかな…そうすりゃ、全部話すからさ…」
あの人と言って、おなかをうたれて死んでしまった人を指さしている。
けいさつの人がうなづいて、数人に囲まれた形で目的の場所に座りこんだ。
「お前達は…もしかして、兄弟…なのか?」
「………いや、俺のガキの頃に死んだ兄貴とこの人が…親友だったんだ…」
そう言いながら血で汚れた手を自分の服でふいてから、今はもう動かない人の目の辺りにさわった。
ここからでは何をしたのか分からないけど、おそらく…開いたままだった目を閉じたのだろう…
「こんな事を聞くのは、無神経かも知れないが…お前のお兄さんは、もしかして戦争※で…?」
(※この話の時点で1975年9月10日です。日下部52歳・刺客2人は38歳と35歳設定です)
「捕まえに来といて、犯人に変な気を遣うなよ…兄貴は、バカが付く程お人好しでさぁ…自分もひもじいはずなのに、俺なんかに食いもん与えて…あっさり死んじまいやがった…戦争が終わっても、食いもんが無くてさ…俺もこの人ももうすぐ兄貴の所に行けるって話してたら、軍服着て戦地から帰ってきたばかりの日下部の旦那が通りかかって…なけなしの食いもん俺達に差し出して、『うちに来るか?』って言ったんだ。俺達は、藁にもすがる思いで日下部の旦那に付いて行った…」
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