13人が本棚に入れています
本棚に追加
「いや…何でもないんだ。大和…朔也様と遊んでいなさい」
「……?はい…」
へんじを聞いてやさしくわらった男の人は、きた道をもどって行った。
その人のすがたが見えなくなっても、ずっとオモヤ(母屋)のいり口を見つめていた。
「朔也様…?どうかなさいましたか?」
おとながおしえてくれなかったことを、やまとお兄ちゃんがしってるとは思えない。
「……なんでもない。おへやに行く」
「かしこまりました」
自分のおへやに行くだけなのに、いつもより長くかんじる。
だれもいないロウカはさびしくて、つめたかった。
こんな家、なくなればいいのに…
「やまとお兄ちゃん、もし…この家から出られるとしたら、どこに行きたい?」
おかしなことを言ってるのは、わかってる。
行きたい場所を言われても、今のボクがつれて行けないのだから…
「いつか…本当にこの場所から出られる時が来れば、朔也様をお好きな所へお連れいたします」
そんなの、この家から出るイミない…
こまってるボクの頭を、やまとお兄ちゃんのやさしい手がなでる。
「高木の者よ…屋敷内で、そのような話をしてはならん」
とつぜんの声にビックリして声のした方を見ると、きものすがたのオジイさまがゆっくりと歩いてくる。
「もうしわけございません。とがめは、全て私が…」
「ダメ!オジイさま…やまとお兄ちゃんは、ボクが聞いたからこたえただけなの!なにも、わるくない!」
やまとお兄ちゃんのコトバをさいごまで聞かないで、オジイさまのいる場所まではしる。
きもののそでを持ってオジイさまを見ると、そんなボクにこまったようにわらう。
どうして、『はなせ』って言わないの?
お父さまなら…
「朔也…安心しなさい。私は、隆臣とは違う。高木の事も、咎めたりなどせんよ」
「……ッ!ほんと!?」
聞きかえしたボクの頭を、あいていた左手でなでる。
「あぁ、本当だ。高木よ…まだ7歳のお主が、咎めなどと口にしてはならん。お主が教育係の任に就くのは、朔也に子が出来てからだ。その時が来るまでは、朔也と兄弟のように成長してほしい。任せたぞ」
「かしこまりました」
ていねいなオジギをするやまとお兄ちゃんに、オジイさまはこまっていた。
「もっと子供らしく振る舞っても、構わないのだぞ?」
「それは…」
やまとお兄ちゃんにとって、そっちの方がむずかしいと思うんだけど…
―――――――……………
最初のコメントを投稿しよう!