第1章 はじまりの子《幼少編》

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「いや…何でもないんだ。大和…朔也様と遊んでいなさい」 「……?はい…」 へんじを聞いてやさしくわらった男の人は、きた道をもどって行った。 その人のすがたが見えなくなっても、ずっとオモヤ(母屋)のいり口を見つめていた。 「朔也様…?どうかなさいましたか?」 おとながおしえてくれなかったことを、やまとお兄ちゃんがしってるとは思えない。 「……なんでもない。おへやに行く」 「かしこまりました」 自分のおへやに行くだけなのに、いつもより長くかんじる。 だれもいないロウカはさびしくて、つめたかった。 こんな家、なくなればいいのに… 「やまとお兄ちゃん、もし…この家から出られるとしたら、どこに行きたい?」 おかしなことを言ってるのは、わかってる。 行きたい場所を言われても、今のボクがつれて行けないのだから… 「いつか…本当にこの場所から出られる時が来れば、朔也様をお好きな所へお連れいたします」 そんなの、この家から出るイミない… こまってるボクの頭を、やまとお兄ちゃんのやさしい手がなでる。 「高木の者よ…屋敷内で、そのような話をしてはならん」 とつぜんの声にビックリして声のした方を見ると、きものすがたのオジイさまがゆっくりと歩いてくる。 「もうしわけございません。とがめは、全て私が…」 「ダメ!オジイさま…やまとお兄ちゃんは、ボクが聞いたからこたえただけなの!なにも、わるくない!」 やまとお兄ちゃんのコトバをさいごまで聞かないで、オジイさまのいる場所まではしる。 きもののそでを持ってオジイさまを見ると、そんなボクにこまったようにわらう。 どうして、『はなせ』って言わないの? お父さまなら… 「朔也…安心しなさい。私は、隆臣とは違う。高木の事も、咎めたりなどせんよ」 「……ッ!ほんと!?」 聞きかえしたボクの頭を、あいていた左手でなでる。 「あぁ、本当だ。高木よ…まだ7歳のお主が、咎めなどと口にしてはならん。お主が教育係の任に就くのは、朔也に子が出来てからだ。その時が来るまでは、朔也と兄弟のように成長してほしい。任せたぞ」 「かしこまりました」 ていねいなオジギをするやまとお兄ちゃんに、オジイさまはこまっていた。 「もっと子供らしく振る舞っても、構わないのだぞ?」 「それは…」 やまとお兄ちゃんにとって、そっちの方がむずかしいと思うんだけど… ―――――――……………
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