第1章 はじまりの子《幼少編》

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【朔也side】 おフロ上がりに、中にわに行けるハナレ(離れ)のロウカで立ちどまる。 お母さまのボダイジュ(菩提樹)を、大きな赤い月がてらしていた。 「朔也様…?気温が高いとはいえ、ぬれたままではおカゼをめしてしまいます」 コトバといっしょに、頭にかけられたまっ白なタオル… やまとお兄ちゃんの手が、やさしくかみをふいてくれる。 「月が…赤い…」 ボクのヒトリゴトに、やまとお兄ちゃんの手がとまった。 うしろにいるからお顔が見えないけど、やまとお兄ちゃんもきっとあの赤い月を見てる。 血のように、赤い月… こわくなって、やまとお兄ちゃんにだきついた。 「朔也様…!?どうされました?」 「……なんでもない」 そう言ってはなれようとしないボクを、やまとお兄ちゃんはどう思っていたのかな… 「父上…」 そう言ったやまとお兄ちゃんが見てる方に、高木家の当主と水無月家の当主がいた。 高木家の当主はやまとお兄ちゃんの父おやで、ボクのきょういくがかり(教育係)… 水無月家の当主は、かれい(家令)※…かれいってなんだろ…? (※使用人の最高責任者) その2人が、だきついたままのボクを見てすこしわらった。 「朔也様、大和が困っております。離してやっては、頂けませんか?」 やまとお兄ちゃんが… 「……こまってるの?」 「少し…」 そのへんじを聞いて、手をはなした。 こまらせるつもりじゃなかったのに… 「……ッ!?」 下をむいたボクの頭に、やわらかなタオルがふってきた。 「だきつかれたままでは、髪をふけませんから」 か、かみくらい… 「……自分でふけるもん!」 しゃがんでにげる。 「あのようなふき方をすれば、また髪がからまるでしょう?」 女の子でもないのに、そんなこと気にしてどうするの… 「朔也様…大和…じゃれてないで、早く寝なさい。良い子は、寝る時間ですよ?」 かまってくれることがうれしくて、いつもワガママを言ってしまう。 「……ボク、いい子じゃないもん…」 「おや…それは困りましたねぇ…では悪い子の朔也様は、どうすれば寝て下さるのでしょうか?」 そう言ってるあいだにも、ボクをだっこしておへやにむかう。 「おはなしして。それか、本よんで」 「御意」 おとなたちには、シゴトがあるのはしってる。 でも、行かせたくなかったんだ。 どうして、こんなに不安になるの…?
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