第1章

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五月四日  本日の斗明学園は朝から大分騒がしかった。一年A組の丁度目の前のグラウンドに百二十人ほどの人だかりができていた。芸能人でも来たのだろうかと思いながら、別にあんま興味ないけどちょっと覗きにきましたぐらいの表情で近づく。 「……」  人が多すぎて全く見えない。なんなんだこいつら?急に生きる目的見つけましたみたいなテンションで活発に野次馬しやがって。そんな野次馬の中心に近藤を見つける。 「近藤っ」 「おうレイン。見ろよこれ? マジヤバすぎ」 「ちょっとすいません通して下さい」  タイムセールに群がるおばさま方のように多少強引にグイグイと輪の中心を目指す。その先にいるのが近藤。朝から泣けてくる。 「なにかあったの?」 「見ろよこれ」 「なっ……なにこれ?」 「どう見ても血だろ。血」  たどり着いた輪の中心には、錆のような色をした畳二畳分ほどの血痕が砂を溶かすようにベッタリ付着していた。グラウンドに現れた赤茶色の水溜まりは、残念なことに付着後の時間経過をそれほど感じさせず、状態はかなりフレッシュ。ヌラヌラと太陽の光を吸収し現在進行形で乾燥に向かっていた。さらによく見ると所々凹んでいる。なにかで強く叩いたような後だろうか?それとも単に元からこうだったのか?周囲のあらゆるものが関係あるのではないか?という思考が連続して現れる。それはきっとこの広範囲に広がる血痕という非日常のせいだろう。 「おいお前ら教室戻れっ あとそこ絶対触るなよ。ほらさっさと教室戻れっ」  野次馬達はまるで、突然数十本のロケット花火が倒れた時のように逃げた。パニックを実にわかりやすく表現したその姿は最高に情けない。それも覚悟で逃げた。本気で。なぜなら今私の目の前に立っている、昔のスポーツ刈りのようなヘアースタイルの男は一年生活指導&体育担当の前田だからだ。みんなが豆まきの時に、鬼を見て逃げ出す幼稚園児のようになってしまうのは当然のことだ。鬼など前田に比べれば可愛いもんだ。前田なら恐らくいくら豆を投げつけられても、大声で笑いながら口を開け、ドシンドシンと向かって来るだろう。だが我がクラスのバカ日本代表の近藤は違った。 「先生。これ人間の血すかね?」 「なんだよ。コレお前の血じゃねえの? なんだよ上原先生と賭けてたんだけどな。俺の負けか」 「警察呼んだんすか?」
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