第1章

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「ああこの子。よく来る子だわ」 「大体でいいんで最後に見たのどれくらい前か教えて貰えないでしょうか?」 「この子になにかあったの?」 「いや……最近会ってなくて、連絡先交換してなかったんで元気にしてるかなと思って……」 「確か……一ヶ月くらい前に見たのが最後かしら?」 「そうですか。ありがとうございました」 「今日はいいの?」 「え?」 「ほーん。今日は借りないの?」 「あっ はい。今度にします」 「そう」  小太りなおばさんは一瞬笑顔を見せ、自分の仕事に戻る。私は軽く頭を下げてその場をあとにした。  一ヶ月前からトマリはこの図書館に来ていない。あのおばさんは私の記憶だと朝から図書館終了時間まであそこにいる。おばさんの証言はまず間違いないだろう。ただ残念なことに高校に入ってからトマリが月に何回のペースでこの図書館に来ていたのかは分からない。もしかして中学を卒業してからトマリは本を読まなくなったのだろうか?そんなはずない。読書好きはそう簡単に本嫌いにはならない。  とりあえず図書館から出る。  次に私は七浜町の海に向かった。海と言っても夏に泳ぎに来る観光客はいない。地元の人間ですら足まで浸かる程度。理由は苫小牧市の海は凄く汚いから。荒れ果てた砂浜。目の前には管理を放棄した流木やバーベキュー後の残骸。丸くて黄色い浮き。潮水を吸い込んだ雑誌。元のカラーがわからなくなった冷蔵庫。二度と物を収めることができなくなった箪笥。つまりゴミの砂浜。  私はトマリと何度も座った堤防に腰を降ろす。目印は右端のテトラポッドから十七個目の正面。中学の時あまりお金が無く遊ぶ場所が皆無な苫小牧市に生まれた私達が訪れる場所と言えば、この汚れた海か中央図書館ぐらいしか無かった。三年の夏、この場所でトマリは一年の頃から好きだった先輩に、その気持ちをずっと伝えられずにいることを私に打ち明けた。それを聞いた私は簡単に当たって砕けろ的なことを言ってトマリを少し怒らせてしまった。
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