第1章

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「レインは二年半以上想っていた人に、当たって砕けた時の自分が想像できる?」と言った。それもそうだ。二年半という長い間たった一人の人間だけを想い続けたことが無い私は、その言葉の返答に困った。私は考えに考えて、「でも当たる気すら無いんならその先をいくら想像しても無意味だよ。成功も失敗も次に動き出そうと決めた自分の行動の結果なんだから。行動するってそういうことでしょ?」と私はなんともそれっぽいことを言ったのだった。それに対してトマリは「今良いこと言っちゃったとか思ってるでしょ?」と口を尖らせながら私を睨んだ。私は「当然」と告げた。トマリが笑い私もその顔を見て笑った。 波のぶつかる音がトマリと私の笑い声とぶつかる。 一瞬完成した私の中にある小さな世界。 穏やかな世界。 スローな世界。 トマリを見つけられない世界。 トマリの居場所。 想い出は想い出。 現実は現実。  堤防の先。右を見ても左を見てもトマリの姿は無かった。捜索初日にも関わらずトマリを見つけるのが不可能な気がしてきた。すでにトマリ捜索とは名ばかりのトマリ&レイン想い出ツアーに成り下がっていた。ほんのわずかでも思考に空白を作ると、湧き上がるのは諦める言い訳だった。こんな小さい街で幼馴染一人見つけられない自分を呪い、トマリとの想い出をダラダラと脳内で再生させながら家路を歩いた。それが今の私に唯一赦されたトマリを見つける為の、準備体操だと言い聞かせて。 翌日。私は学園に向かうはずの日常を否定した。  考えすぎてキャパシティをオーバーした思考は逃げ場を失い、頭の中でシュルシュルと音を鳴らし動きまわっている。  あのグレーの猫とトマリの笑顔が頭の隅でチラついていた。  ただただ暗い部屋でストップすることを忘れたループが繰り返された。  そんな悲しみの私にもリアルの世界の秒針はおかまいなしに刻一刻と一定のリズムを刻み、気づけば朝の目覚めから四時間が経過していた。  ふと、私はあのお気に入りの場所に行きたくなった。ここにいてもトマリを見つけることはできない。マイナスの思考が溢れ続けるばかりでなにもいいことがないと思った。  ベッドから起き上がり、私服に着替え逃げ出すように家を出た。
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