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流星は帰っていった。
夏河は久しぶりの日本酒に舌鼓をうっている。
奥の間に布団を並べて敷いた。
いい歳した男が有り得ねーが、一晩まともな日本語を聞かせないと、抜けないのだ。
仏壇の上の祖母の写真を見上げる。
祖母も物語を紡ぐ人だった。
童話を書いていたらしい。
満州に渡って、夫と死に別れ。
引き揚げてきて、働き尽くした。
筆名は教えてくれなかった。
俺と夏河が預けられた時は、毎夜お話を聞かせてくれた。
「どうしておばあちゃんは、もうお話を書かないの」
夏河がそう訊いたことがある。
ばあちゃんは、笑っていた。
その日のお話は、お話を作るのが好きな女の子の話で。
結末は、こうだった。
『女の子は、神様にもっともっと面白いお話を書ける力を下さいと言いました。
神様はお話の種をたくさん集めなさいと言いました。
それから、種をしまっておく心を柔らかく広げなさいと言いました』
夏河は、酔いつぶれて寝た。
どこのかわからない言語で、おやすみ、ぽい事を言った。
続きは、確か。
お百姓のように、出来たものが誰かの空腹を満たす事はない。
いつ実るのかもわからない
あ、思い出した。
『いつか、小さな実ができるやも。そのお話が誰かの心を震わせたのなら』
『それは、たくさんの種になり新しい物語が芽吹くのです』
祖母ちゃん、俺、書いてる。
多分誰も読まなくても
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