その少女、有頂天。

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「ババァに見えるようにしろってこと?」 私が言葉足らずだったのか、彼女が考えが極端すぎるのか分からないが、伝わらなかったらしい。 再びメガネの奥の双眸が鈍く光った。 「大人に見えるようにしろってこと!私みたいに」 「あのね…」 ハァ、と呆れを隠すことなくわざとため息をつき、やれやれと彼女は首を左右に振った。 態度にしてくれるのはありがたいけど、ツッコんでほしかった。 そんなリアルな反応は、さすがに悲しいというもので。 自分で言ったんだけども。 やっぱ、ツッコミは斉藤が良いな。 まなちゃんはリアルで、カジヤン君は論外。 「あ、そうだ。3組の彼、えっと…梶ヶ谷君だっけ?彼に礼でもいいわけでもしといた方が良いわよ」 仕事をこなすまなちゃんの後姿に、エスパーですか?と尋ねる。 丁度彼の位置づけを「論外」という枠にしていた時なので、流石にビビった。 「なんで?」 「梶ヶ谷君と階段ですれ違ったのよ。そしたら『保健室に宮路が体調不良で寝てます』って言い逃げしてったのよ」 「体調不良、ね」 「体調不良でしょ?」 「そーですね」 言ってくれたのは良かったとしても、何故言い逃げ? そこが少し気になった。 授業始まってるので、一応あわてたのかもしれないけど。 カジヤン君の考えることはさっぱりわからない。 「なんで梶ヶ谷君がまた保健室に来たのか、聞くべきだったんだけど。あなた知ってる?」 「『また』?」 「彼、朝も来たのよ。おでこから血を出して」 「…、」 絆創膏は朝の出来事だったらしい。 朝、登校中にペダルを踏み外したのだろうか。 なんだかんだと予想を立ててる私の無言を疑問と感じたのか、まなちゃんは「自転車から落ちたんだってさ」と教えてくれた。 「膝とかじゃなく、おでこってすごいわよね。」 どうおちたんだか、とまなちゃんはクスクス笑った。 私はその意見を聞いて、また推測を立てる。 ペダルを踏み外したとしても、まず手をつくことが可能なんじゃないだろうか。 とりあえず、私はカジヤン君がもう一度絆創膏を貼ることになった理由を答えた。 追いかけただの追いかけられただのは端折って、私が爆笑してムキになって取ったというのも端折って。 かゆいから剥がしたら血が出た、と伝えておいた。
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