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◇
「さーっちゃんっ☆」
「…、」
「おい、引くな。後ろからハグするぞ」
「それ、一種の脅しだからな!?」
女子からのハグの申し出を脅しというとか、いくらなんでもひどすぎる。
「嫌がるの見ると、やりたくなるよな!」
「ひねくれてんな…お前」
「いやぁ、それほどでも」
「ツッコまねぇぞ」
そこは王道のツッコミ「褒めてぇよ」を言う場面だろうが。
王道破れの斉藤の足の甲を思いっきり踏みつけながら、私は頼みごとをした。
「カジヤン君に、これ、渡してちょんまげ」
「…、」
「渡してチョモランマ」
「…、」
「渡してチョコレート」
「…、」
「早く受けとれや」
無反応の斉藤の制服のポケットに、私は例のモノをつっこむ。
例のモノとは、言うまでもなく大きな絆創膏である。
「…なんで絆創膏?」
「カジヤン君のおでこみりゃ分かるよ」
「見たけど…。お前、これ持ち歩いてるほど女子だったっけ?」
「まなちゃんに頼まれた。」
「だよな」
凄く馬鹿にされた気がしたので、もう全力で足の甲を踏みつける。
おまけにぐりぐりと圧迫してみる。
私が絆創膏すら持ち歩いてない女子力のない女子みたいじゃないか、その言い方。
持ってないけどさ。
「自分で渡せよ」
「えー。部活一緒じゃん、斉藤は」
「クラス違ぇし」
「私も違うわハゲ」
んじゃよろしくね、と私は斉藤に押し付けて教室に入った。
ちゃんと朝から来てるのに、今更鞄持って教室には言って来たもんだからサボりだって思われてんだろうな。
それは別に構わないんだけども。
斉藤のことだからなんだかんだで渡してくれるだろう。
押し付けやがって、とか思ってるかもしれないけど。
なんとなく、今はカジヤン君に会いたい気分じゃなかった。
―――こんなことしたら、カジヤン君がお礼をわざわざ言いに来るだろうっていうことを、私は予想できていなかった。
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