第1章

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 貝の中で暮らしているんだ。 閉じる事が無いこの貝は珊瑚に囲まれているんだ。 この中には温かい海も、冷たい海も入ってこないんだよ。 だから、水槽のような棲み易さなんだ。  それはつまり、飛ぶ為に羽ばたくのが必要であるとか 遅刻しない為に走る時間だとか、距離に煩わされるなんてないんだ。  貝の中からみる、海はとても狭いんだ。 黄色い時もあるし、紫の色になる時もあるから そういう海を眺めていれば、時間ということとか 太陽がプカプカ浮いたり、ドブリと沈むとか 何もかもが解ってしまうんだ。  以前ね、何かが沈んできたんだ。 かなり長いこと浮かんでいたのだと思うんだよ。  それでは仕方ないから、ドブリドブリと沈んでくる方がいいと 思ったのじゃないかとか、黄色や紫を見たいから底まで 頑張って潜ってきたんじゃないかって、あたりをつけてみたんだ。  この閉じない貝を外側からみて すぐに割れたピスタチオのようだと考えたのはね その以前、さっき話した以前に沈んできた 長いことプカプカ浮いていたのでないかと思いついた 海の外にある割れた豆つぶの話を 友達に聞いたからなんだ。  友達?あいつはカニさ、ヤシガニなんだ。 だから外にある樹だとか空だとかに詳しいんだ。 そして硬い殻を持つのは貝だけじゃないんだって 気まぐれに話ながら、貝の周りをせわしなく走るんだ。  だから、遅刻しない為に走るのかい?って聞いたんだけど あいつは、サーキットは走るものなんだっていうんだ。  なら、ずうっと走る気なのかいとも聞いてみた。 そうじゃないさ、エンプティになれば走れないのさ 海の中に風は無いだろう、だからこうして廻っているわけだよって 何か変な話をするんだよ。  君はどう思うんだい? 海に来てからまだ、それほど時間が経っていないだろう。 人間っていうのは、あんまり長くは海に潜れないって ヤシガニのあいつも廻りながら言っていたよ。  無理は禁物さ。 だってさ、ここまで潜って底にある貝を見たからって どれだけの人々が喜び、悲しみ、無関心なのだろう。 そんなものだろう、君たちの自然の掟とかいうのは。  パンのように海に浸せば台無しというような。 でも、それもいいもんじゃないか。 海でなくスープに浸せば、幸福感が沁み込んで来る。  生命のスープとか呼ぶ人もいるね。 海は想いの先にある。 いつだって帰っておいで。
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