第1章

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なんとなく触った感触だけに反応してる。  見えれば、もっと匂いや音を感じれるのかな。  どうしよう。 何も出来ない。  まだ、眼を閉じて何か想像する方が 木陰に隠れて覗く日差しの暑い白さも 風に混じった砂の飛んでいく方向も 水出しの新茶の涼しい滑らかな香りも 甘くて苦くてショコラみたいな柔らかな色も なんでもある。  触感以外なら。 想像のイメージは触れないけれど どんな時間順にも並べられるし 何色で塗り重ねても、苦しくならない。 眼を閉じれば凡て整形できる。  でもいま触感しかない。 自分の出した声が、自分で聴き取れているのか それも気味が悪くなって、床を手でコツコツと 叩いてみたけれど、感触はあるのに 音がしない。  ここはどこなのだろう。 私、やっぱり駄目だったのかな。 だとしたら、ここは石の中。  ずっとこのままなのだとすれば 終れば消えて 在った事も、有った事も、逢った事も 最初から無かったように 無かったようにさえ感じないって そういう気持ちがあったから 何も期待して無かったけど 絶望だけは確実なんだろうって 勝手に決め付けていたから駄目だった。  絶望だって裏切る。  何もすることもなくここにいる。 数分か数時間か、適当に経ったと思う。 触感しかないなら、歩いて痛みを感じても いいような気がしてきた。  前も後ろも判らない真っ暗闇 見えなくても、目が向いている方向が 前なのだと思う事は面白い気がする。 そうだ、眼の高さよりも上、低い方は下。 床は下だから 判らないのは横と後ろだけ。 思ったよりも、色々判るような錯覚。 楽しくなってきた。 歩いてみよう。  グイ。  左手の手首が何かに引っ掛かった? え、さっきまで何も  ある、確かにある  左手に巻きついてるのは紐のようなものかな とにかく何かが絡まってる。 何だろう、いつ巻きついたのだろう。  相変わらず感触しかないけれど 衣服と床と自分以外の感触は奇妙。 でも、それだけなら衣服とそれほど変わらない。  ただ  この紐、どこかへ伸びている。 いま突っ張ったのは、どこかと繋がってるんだ。 じゃあ、結んであるのなら、床以外に何かがあるはずだ  すぐさま紐を手繰って、その伸びている方向 方向と感じる自分に、いまだ真っ暗闇に眼が慣れない この暗黒を楽しんでいたのに、音など聞こえないけれど 何かが突然、返事をしたような気がして
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