第1章

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夢中で紐を手繰りながら歩く。 床はずっと冷たくつるつるしている。  どこまで歩いても何も変わらない。 この紐は終るのだろうか?  紐は暗黒をますます真っ暗に浮き立たせる。 暗黒が浮き立つというはおかしいけれど 紐が見えないから、暗黒が沈んでいくように 他に感じない。  紐のせいで自由な想像のイメージではない 不安な疑念が、私を整形してくる。 それでも進む事を止められない。 他に何もないから。  急に思い切り顔を何かにぶつけた。 痛いし感触も床のつるつるとは違うけれど 音はやっぱりでない。  紐はそのぶつかった何かに結んである。 大きい壁のようなものだろうか。 行き止まりなのだろうか?  紐の結び目を探ると、そこだけ出っ張っている。  これは、形だ。  それからこの形は以前、触った事があるものに似てる。 ドアノブだ。  ドアノブに紐は結ばれていたのだ。 恐る恐る、ノブを回すとドアは  ガチャ、ギィーという 久々の耳に入る ノイズ。  そして、ドアは開いた。 ここまでたどり着くのに百分以上かかっていたんだ。 2523歩いて暗黒の白紙原稿から出た。  不恰好だけれど、ドアになっていた この最後の一行を書き終えて、ページを閉じれば外。  漆黒ばかり渦巻く外。  そして五感が戻る。 これが夏の扉。  怪談とはお化けの話ではない。 何か解ってるのなら、お化け噺でしかない。 その化け物が何か解ってるなら、それは妖怪でもない。  何が化けてる。  妖怪とは、妖しく怪しい「何か」ではない。 怪談とは、怪しい話なので そこにキャラクターは必須とは限らない。  つまりは、アマチュアであっても小説を書く以上 物、怪物ではなく妖怪の「物」でない部分を 手繰るのが、怪談の本調子でありたいのかもしれない。  そこを敢えて妖しくスケールアウトしていく。 不文律をこそが怪しく。  故に、扉を開けて進んだ先は煤けた自分と、 薄明かりの道だけが辛うじて判別できるというだけの 長い階段の道だった。  両側は墓地である。  階段の左には暗闇の中に真っ白な八雲神社の鳥居。  ああ、またここなのか。
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