第1章

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*「まぁそういう考え方も、あるけれどさ」 「そうじゃないの。そういう考えしかないの。」 *「うーん。それを考えるのは君の自由だけど、俺の考えだって」 「無いの。あなたの考えは私の考えの延長上なの、 私の考えはあなたにだけしか通じないようになっているの。」 *「余りにも一方通行過ぎないんじゃないかな?」 「だって一方通行なんだから、逆走したり出来ないでしょ?」 *「けれども、俺はその一方通行である道の存在さえ知らなかったんだ、   責められても流石に詫びようもないし…」 「謝って欲しいって言ってないじゃない。」 *「じゃあ、何を欲してるっていうのさ?」 「この鬱屈とした、ある意味で本能みたいな悲観した気分は解る?」 *「まぁ、確実とは言わないけれど、少なからず気持ちが沈んでいるか、   若しくは苛立っているって事は、想像できるし間違っていないとは思ってるよ。」 「解っているなら、唯、前だけに進めばいいだけ。犀の角とは言ってないよ。」 *「何それ?お釈迦さまだか、なんかの言葉だっけ。」 「そんな事はどうでもいいの。そういう無駄口は嫌悪に繋がり易いんだよ。」 *「わかった。でも、君の本能的悲観を俺にはどうやったら   手助けできるのか、そこまでは解らないよ。すまないけれど。」 「珈琲、冷めるよ。」 *「ああ、うん。もう唯の苦い墨汁みたいだよ。」 「何それ。あなたはそうやって1時の次は2時、夏の後は秋って  線を引いていて実質がずっしり詰った有用時間よりも、  計測や観測した記号でしかない、紙に記入できる時間しか  興味がないじゃない。いつもそう。」 *「さすがにそれは納得出来ないなぁ。侮辱されてる気持ちだよ。」 「じゃあ、あなたはアイスコーヒーもホットコーヒーも飲むくせに  温いときだけ、苦い墨汁なんて悪口をいうの。」 *「いや、冗談のつもりだったんだ、不味いとまでは言ってないよ。」 「なら、私にはいつも冗談をいうの?悲観的な私にいつも。」 *「風味や香りは存分じゃなかったよ、伝わらなかったのは   俺のせいでもあるし、冷める事が当たり前の珈琲の個性だよ。」 「じゃあ個性は否定しないのね。それでも天津甘栗なんか 必ず真ん中から割って剥くでしょう。いまもそう、私は真ん中から真っ二つ。」 *「俺にそんな権利はないし、悲観的であることも個性じゃない。
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