第1章

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 かなわないなあというのが本音でした。 彼女も俺も特に普段から、酒を嗜むという程でもなく かといって、美味しい串焼き屋のカウンターで 少しならという気持ちで、なめるようにする事はありました。  彼女のお父上に最初にご挨拶に行った時には ご酒がかなりお好きだと、彼女が武器調達のアドバイスをくれ 俺の安月給ではそれなりに頑張った、勿論、お父上に 合うかすらハッキリしないので、銘柄にはかなり 時間をかけて丹念に調べて、納得のいくモノを 選別できたつもりだ。  その温度差は、未熟故に甘えて お受けして貰いたい。  当日は、その気持ちでいやに緊張が酷かった。 お宅へ伺い、丁寧に挨拶をしてから 詰らぬモノで恐縮ですが、お口汚しにと 本命を差し出した。  彼女は横でニヤニヤとしている。 お父上は、「君はいける口かい?」と 気さくに声をかけてくれた。 はぁ、なめる程度でしたらと、普通に返事をした。  すると棚から大層に不恰好な焼物の徳利と猪口が出てきた。 彼女はそれを燗してくれた。  それを待ちながら、広島産の菜に箸をつけて これがとても美味で、思わずご出身は 広島の方でしょうか?と聞いたがお父上は 「君が遊びに来てくれると聞いて、親戚から届けてもらった。」 光栄だ、それ以上に美味い。  上手い具合に燗がついて3人で乾杯をした。 私がお父上に酌をさせて頂き、彼女は私に徳利を向けたが お父上の手前なので、手酌で大丈夫と微笑んだ。 「この徳利は私が焼いたのよ」と彼女は言った。 不恰好と思ったが、そう言われれば愛らしいと思えてしまう。 可愛いと素直に思った。  お父上は変な事を仰った。 ところで、今日ここに来るまでに 君は、上手、美味、丹念、上手、丁寧。 そんな事をもし考えたのであれば 是非、それらを今日の一日を旨いと感じて貰えたら 私もおいしく嬉しいと思うよ。  娘は全くそこらに楽しみ感じないようだが 君と居る時だけは、多少は呑むと聞いている。 私は大層、驚いたのだ。 今度の酒は凄く旨いと。  また遊びに来てくれ、秋頃には旬のもので 旨い一升一杯を頂こうじゃないか。  彼女はニヤニヤ笑っている。 ああ、かなわないなあ。
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