第1章

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 永遠に近い時間を観察されて過ごす日々に思います。  眺められるという事は、眺めるからすれば哀れに思うのでしょうか。 だが、少なくとも私自身には、何か そう、例えば種族や分類、系列とかそういう 某がの属性において、代表者に選ばれた誇りで胸一杯であるわけです。  いつか何かを捕まえたいと願った少年がいたとか。 そう思って毎日毎日、休館日以外はボンヤリ突っ立っています。 具体的にいうなら支えられています。  私たち博物的な陳列の栄誉に預かったモノには 安息日など不要なのです。  あの神様でさえ、一週間に一日は休息を御取りになられたと 見物に来る者たちから聞いた事があります。 無論、私たちには休みを義務化される規則はないのです。  誰一人、埃くらいしかやってこない一日でさえ 暑かろうが、寒かろうが、私たちは貴方たち つまり、来館する皆様を待っています。  唯、見物され、博物されるが為に。 而して、皆様はどうでしょうか?  池の畔で、どんな素晴らしい油絵をキャンバスに刻もうと 駅前で鮮やかなジャグリングを披露しようとも 最高のカンツォーネを、公園の心地よい噴水脇で歌おうと 海の波が荒くなった時に、詩を詠もうとも。  だれも気にしないのではないか?そう感じる事も 何も胸を響いて打ち鳴らしたりはしません。  私たち博物館の陳列品も同じであるようです。 入館料を支払う、その日々においてのみ  我々、否、少なくとも私は、 見物され、博物され、名物を読まれるのです。  誇り高き博物館の皆々様。  どうぞ、本日はかの神様すら休まれたという あの名高いという名前の高い、つまり名物的で博物的な 休館日なのです。  さぁ、崩れ朽ち果てましょうか。 そこの貴方は千年前の甲冑なんですか? あちらが数万年前の骨だとか。 どうぞ皆様、お互いを讃えましょ。  今日、この博物館から知る者は消えます。 博物は無用になる宿命。 私たち証拠品が消えれば、センチメンタルな茶番は 全て無用。あなたなら判って下さるはず。  申し遅れました、私はティラノサウルスの♀の骨格標本なの。 6500万年程、今日を待ってましたよ。随分、長い間。 だから博物館の皆様に謹んで、休館日を祝って。  私に食われる。 それがアンタの宿命だから。 一切、諦めておくれでないかい。ヒャヒャヒャ。 いずれ時間に食われる私の為にも。  では、いただきます。
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