2人が本棚に入れています
本棚に追加
好きな色と考えてみて、すぐに思い浮かぶ色は
浅葱と銀煤竹だと思う。
C県I市にある、知らず森という竹薮がある。
国道沿いであもあり、その竹薮をグルリと囲む柵の横を
車が何台も行き交っていて、人の往来も絶えない。
その竹薮を囲んだ柵が一箇所だけ開かれている。
小さく「不知森神社」とある鳥居と小さな祠がある。
森と合わせても二十平方メートル程度の場所だ。
時折、通りがかって手を合わせて行く方もいる。
その神社を避けるように竹薮の柵囲いが
国道と同じく侵入できないように区切ってある。
神社の背後には、隙間すら無い様に、
柵囲いなど不必要な程に、ぎっしりと竹薮が犇いている。
参拝して礼をして頭を上げると、竹薮の中で何かが動いた。
夏が近い陽射しを全て遮断しているような
闇の煤けた竹薮の中で、人のようなものが動いた気がした。
この森は江戸時代の頃から、誰も入ってはいけないとされている。
万が一、それを「知らずに」中へ入っている人が居るならば。
柵越しに、声を掛けてみた。
「どなか、竹薮へ入っていらっしゃいますか?」
返事もなく、動いていた気配が急に
私の声に反応して、止まったような気がした。
反応して。
そう感じたのは、何か竹の隙間から、闇の中から
こっちを見ている気がした。
どころか、何故か真っ暗な気がするのに
何も動いていない筈なのに、此方へオイデオイデをしているような
奇妙な気分になった。
竹薮が風に揺れる。
僅かだけ入る木漏れ日が、時折、闇に光を入れて銀煤竹色に淡く
私を惹く。
曾祖母は私が幼い頃に言っていた。
「シモンがあるから、お知らず様に入っちゃならん。」
シモンとはなんだろう。
それを訊きそびれたまま、曾祖母は他界してしまった。
私は、ついフラフラとスカートなのも忘れて
柵を乗り越えて、木漏れ日が魅せる淡い銀煤竹に誘われた。
何か再び動き出しているような方へ、歩き出してしまう。
動く誰かは六人程いて、道案内をするべくオイデオイデをしながら
奥を示す。
人じゃない。
泥で出来た人形のような者達が私をぐるりと囲む。
その信じられない不可思議な光景に、そのまま座り込んでしまった。
先の方には真っ黒い穴があって門が開かれていた。
死門。
ぼんやりしているとガッっと大急ぎで、手首を捕まれて
凄い速さで門は閉まり、私は泥だらけのまま神社の柵を越えて
最初のコメントを投稿しよう!