第1章

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 だが私達、いや少なくとも私個人は、そのように考えていない。 絵画もまた制作過程において、時間的制約を費やさねばならない。 瞬間だと思うのは、鑑賞する側の勝手な感傷的意見だ。 画家無くして、絵はあり得なく。 絵は何もかもを、奪ってしまう。  少なくとも君の絵は、数百の国家、数億の民衆を 丸ごと誘拐しているようなものだ。  それがどれほど危険な事か? 考えてみた事はあるのかな? ← *** 知らない。 *** *** 描くだけだ。 *** *** 描かせてくれ。 *** →  約束だから、このグラスの水は君に贈ろう。 君の椅子の横に小さなテーブルがある。 その中央に置くので、倒さないように気をつけてくれたまえ。 ←  コトリ。 ***→  瞬間、部屋の風景が浮かんだ。 私を拘束している、この人物は確実に私を認識している人物で 右利きの私を意識して、テーブルを置き、水の入ったグラスを 直ぐ近くの真横右側に置いた。  テーブルには何か別のものが乗っていて、それが揺れた。 その音を私は知っている。  何だ。 音だって一瞬ではないか。 絵筆に間違いないのだ。  私は視覚以外の五感、つまり六根の内の五つを使い 絵筆を口に咥えた。 水だけは慎重に零さないように。  チャプン。  何もかも当たりだ。 ならば正面には、キャンバスがあるはずだ。 ゆっくり、ゆっくり。 恋人にキスをするように、口を前に出す。  触れた。  素早く、唇を噛み切って、血を筆に滑らす。 私は「紅」を使い一気に、暗闇を染める。  1分だったような、1週間だったような。 クリムゾンレイキを純粋に、使って描いた。  力尽きて椅子が左へ倒れた。 疲労が限界まで来ていた。  だが、問題ない。 →***  カツカツカツカツ。  何だこれは……。 手、手じゃないか。 手を使わずに口と血液だけで、手を描いたのか。 手が、この手が、世に出れば間違いなく。  グシャ。 ***→  手が何かを握り潰す音が聴こえた。 私は疲労とのどの渇きで、昏睡してしまった。 ←*** 「Mさん、Mさん!大丈夫ですか?救助に来ました。 もう安心です、すぐに病院へ搬送いたします! おい!担架急げ、Mさんは無事!呼吸、脈拍異常なし。 衰弱による……。 何だ……?!この絵は。血塗れの…手?」  グシャ。  全て握り潰せ。 私が縛られた手で、握り潰していた左手の目玉は何処だ。  探してくれ。
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