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少し、まだ煙たい。
それでもまだ、ベットの上よりは清浄な空気を吸い込み、大きく息を吐く。
でも、わずかな安堵感は、それを上回る恐怖心を呼び込んだ。
「マ、ママっ!」
何が起こっているのか、ワケも分からず、
全身を包む恐怖心から逃れようと、反射的にわたしは、立ち上がった。
隣の部屋で眠っているはずの、両親の元へ走ろうとしたのだ。
「かなこちゃん、たっちゃダメ!」
再び熱い煙を吸い込んで激しくむせ返り、力強い手に、強引に安全圏に引き戻される。
「かなこちぁん、だいじょうぶ。こういうときは、あわてたらだめって、お父さんがいってたんだ」
「消防士の、蓮くんのパパが?」
意思の強そうな、
はっきりとした二重の色素の薄い茶色の瞳が、至近距離で、わたしを、まっすぐ見据える。
「そう。火事のときは、おちついて行動すれば、かならず逃げられるって」
『かならず、逃げられる』
駆けっこも、一輪車も、誰よりも早くて、お勉強も幼稚園で一番できる蓮くんの言葉には、わたしを恐怖心に抗わせるだけの、説得力があった。
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