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「いい? たっちゃだめだよ? キケンなガスが出てるから、こうしてアタマを低くして、ベランダまで行くんだ」
「ベランダ?」
だって、ドアを開けて、廊下の向こう側に行けばパパとママの部屋があるのに。
どうして、そっちに逃げないんだろう?
疑問と共に、ドアに向けた視線が、恐怖で釘付けになる。
この部屋に充満している煙の出所は、部屋の外、
つまり、廊下からだった。
ドアの隙間から今もなお入り込んでくる煙には、チロチロと紅い舌が見え隠れしている。
それが意味することは、幼いわたしにも理解できた。
部屋の外が、燃えている。
あのドアを開ければ、
その瞬間、
この部屋は、炎に飲み込まれてしまうだろう。
でも、
頭で理解できるのと、感情で納得できることの間には、深い隔たりがあった。
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