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『闇がくる!』
『ヤツらが、やってくる!』
死神の訪れを告げる、けたたましいサイレンの音が、渾身の力で疾走する体をたたくように、追い立てる。
日が落ちかけてもまだ生ぬるい、夏の蒸れた空気が、全身に纏わりつきながら、後ろに飛びすさっていく。
全力で走っているはずなのに、
まるで、
泥の海を泳いでいるみたいな疲労感に、思わず、うめいた。
「っ……」
――苦しい。
ハアハアと、
自分の上げる、荒い呼吸音だけが、全聴覚を支配する。
激しく揺れうごく視界の先で踊るのは、奥深い森に抱かれた、広大な敷地に立ち並ぶ、校舎の群れ。
まるで墓標のような、そのすべてを侵食するのは、まがまがしいくらいの、黄昏の色。
宵闇は、すぐそこまで迫っている。
逢魔が時の、
夕日の鮮やかなオレンジの色彩が、網膜を焼く。
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