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――苦しい。
全速力で動き続ける足が、
新鮮な空気を求めて、あえぐように弾む息が、
一瞬先には止まってしまいそうなくらいに、激しく脈打つ、心臓が。
とっくに、限界点なんか超えている。
もう、ダメだと、
もう、ダメだと、あきらめたほうが楽だと、
何度、思ったか分からない。
でも、そのたびに――。
「かなこっ!」
聞くものを安心させる、温かみを持った少し低めのハスキーボイスが、励ますように、わたしの名を呼ぶ。
「もう少しだ、がんばれ!」
直線距離で、約10メートル。
あの角まで逃げ切れば、鈍足な『ヤツら』の射程から、ひとまずは外れることができる。
息が上がって返事ができないわたしは、答える代わりに、ぎゅっと、繋いだ手に、力を込めた。
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